表ドラ、裏ドラ、赤ドラとくれば、抜きドラの話もしておきましょう。抜きドラはその名の通り、手牌から抜いて晒すだけで1翻つく牌。三人麻雀では主にが抜きドラとして扱われますが、第108回で紹介した東天紅のようにを用いる場合もあります。三人麻雀の抜きドラに関するルールも様々ありますが、そのあたりは後の機会に取り上げることにします。
手牌で扱うドラであれば、使うかどうかで選択の余地があるから技術介入要素が高くなるとも言えましたが、抜きドラとなれば大概のケースはツモれば即抜いた方がよいのですから、運要素が極めて強いルールと言えます。
しかし、最強の打ち手として当コラムで何度も御紹介したCさんも東天紅の愛好家であるように、むしろ実力者ほどこの手のインフレルールを好む傾向があるように思われます。
日本における頭脳ゲームの代表格といえば将棋ですが、日本将棋連盟の棋士達が、インフレ要素の強い三人麻雀を好んで打っているというのは意外な事実かもしれません。四人居ても三人で打つ(一人は抜け番)のが当たり前で、そもそも四人麻雀の経験がほとんど無い棋士も珍しくないそうです。十八世名人資格保持者であり、様々なテーブルゲームに通じていることでも知られる森内九段が初めて四人麻雀を打った時に、「三色って何ですか?」と言ったというエピソードを聞いた時は、思わずクスリと笑ってしまったものです。
将棋棋士の中で三人麻雀が流行ったのは、遊びなのだから運の要素が大きい方がむしろ面白い、四人麻雀は時間がかかる(片上大輔七段が東大将棋部に在籍されていたころ、「四麻はだるくてやってられない」と言っていたことをよく覚えています。)というのが大きそうですが、単に運の要素が強いだけではなく、四人麻雀以上に押し引きの精度が求められるので、むしろ技術の差が出やすいとみられたからでもあるのではないでしょうか。
麻雀は「二人」「確定」「完全情報」ゲームではないから必勝法が無いということは第13回で取り上げましたが、運の要素は配牌、ツモという抽選だけでなく、三人目以降の対戦相手の選択にもあります。三人打ちなら対戦相手が一人少ない分、紛れが少ないから実力差が出るという主張も見受けられます。確かに、仮に十人で打つ麻雀があるとするなら、誰が勝つかが同卓者内の選択に依存しやすく実力差が出しづらそうです。
しかし、それなら二人麻雀ならより実力差が出るかと言われると、今度は押し引き判断が極めてシンプルになるので、ある程度以上の実力がある打ち手同士だと差がつけづらくなるとも考えられます。前回、「作業」も極まれば奥義と申しましたが、極めることが容易になってしまえば、運の要素が強いだけなおのこと実力差がつけづらくなるとも言えます。
私は「麻雀格闘倶楽部5」で三人麻雀デビューしましたが、当時は三人打ちになれていないプレイヤーが多かったこともあってか、長く打っていれば四人麻雀以上に勝ちやすいと感じました。しかし、天鳳三麻の鳳凰卓を見るに、私よりずっと押し引きの精度が高い強者ばかり。強者同士でも本当に実力差が出やすいと言えるのか、それともインフレによる運要素の大きさから実力差がつけづらくなっているのか。このあたりとなるとどちらの要素が勝るのか正直自信がありません。
インフレルールは実力差が出やすいかどうかという見解について長々と述べてまいりました。ではどうすれば実力差が出やすいルールになるかといった話は、後の機会にまたするとして、次回からまた特定テーマにこだわらず、徒然なるままに更新していこうと思います。