- 以下「麻雀界 第17号」(2012年5月10日発行)より転載 -
麻雀は普段の人間関係も大事になってくる
4人の中の二人が優勝争いをしているという局面は、非常に難しいですね。 例えば、親でホンイツをやっているなと思った時に、自由に東を鳴かせることができます。アガられたくない時には鳴かせませんが、アガらせたい時には切ればいい、そういう恐ろしいゲームなのです。
アガらせるまではいかなくても、鳴かせるだけでも十分な援護射撃になるので、公正に打つのが難しいというところが多分にありますね。
──将棋は盤面に集中することが最大の目的だと思いますが、麻雀の場合は顔色を伺うことも大切だということですね。
普段の人間関係の作り方も大事かなと、麻雀の場合は感じますね。 嫌われている人はやはり、タイトルを取りにくいということがあります。
優勢なときほど難しい
──将棋の場合、番勝負になるとそいうことを考えることもありますか。優勢な時に大差で勝って、2局目、3局目も優位に進めようとか、自分の強さを見せつけてやろうとか…
あまり考えないですね、そういうことは。
いい勝ち方と悪い勝ち方というのはあるのですか。
それはあります。いい勝ち方というのは、負けたほうがこれで負けたのなら仕方がないなと思い納得する時で、その反対が悪い勝ち方だと思います。
納得がいかないということが将棋でもあるのですね。 それは優勢だった側が負けた場合に多いのですか。それとも、優勢のまま勝った場合でも悪い勝ち方というのはあるのでしょうか。
途中、すんなりいく場合と、フラフラしながらいく場合があるのですが、すんなりいく時がいい勝ち方だと思います。 優勢なのですが、差が開いたり縮まったりということもあって、すんなりいかない時もあります。
それはどうして起きるのですか。
やはり小さなミスが積み重なるからですかね。 優勢な時ほど色々といい手が浮かんでくるので、迷うことが多いのです。
それは麻雀も似ていますね。運が向いてきて優勢になってくると、色々なアガリ方が出てきます。そういう時は、最高のアガリをするよう心がけています。 それはどういことかといいますと、一番難しいアガリに向かうということです。
簡単なアガリほど点数は低くなります。易しいアガリは早く来て、難しいアガリは後から来るのですが、いずれにしてもアガれる時間帯なので、それなら早くアガリに行かないで、優勢なのだから時間をかけてたくさん捲って、難しくて高いアガリを目指したほうが運気がもっと積み上がっていくという考え方です。
ところが、人間というのは往々にして弱い動物なので、目の前に早いアガリが見えていると、そちらを選択しがちです。それを我慢して、タンヤオ・ピンフ・ ドラ1みたいな手に持って いけるような工夫をしたり、自分に対するプレッシャーをかける方向に行ったほうが、いいアガリが生まれます。
ツキがない時は、それしかないので仕方ないと思えるのですが、いい時は何本も道があるので迷うのです。そこが将棋と似ているような気がしますね。
──不利な時の迷いは結構覚悟が決まるので、迷ったとしても開き直れますが、いい時の迷いは間違いやすいことが多いですね。
間違えると体勢が悪くなるので、難しくなっていくことが多いです。
──将棋では、優勢なときほど冷静に評価できなくて、実はこちらの手は局面が詰まっていくといったこともありますか。
優勢な時は直線で勝てれば一番早いですね。 直線で行くと自分のほうも危なくなりますが、それまでに相手のほうが詰んでいることが多いです。手順が強制的になっていって、あまり変化の余地がないのです。
最後の詰め方さえわかっていれば一直線で勝てるので、一見危なそうなのですが、読み切ってしまえば安全です。 少しずつ優勢を維持していくという方法は道中が長くなるので、迷いが生じる可能性が高まってきます。
でも、私はそれがなかなかできなくて苦労してきましたが…
年齢を重ねるにつれ変わるスタイル
──優勢な時のなるべく早い段階で、最後の詰めまで想定するのでしょうか。
そうですね。若い人のほうが計算が早いですから、そういう勝ち方ができるのは20~30代くらいまでで、だんだん年を重ねるにつれて、ちょっとずつスタイルが変わってくる人が多いですね。
──名人がだんだん年をとっていって、今の強さ、それ以上の強さを維持していくためには、どうすればいいとお考えですか
。
それをこれから考えなくてはと思っています。 プロ野球のピッチャーでも、ある年代になるとストレートが走らなくなって、どうしても変化球に頼らざるを得なくなりますが、やはり将棋の場合も同じことが起こってきますので、何かほかの部分で工夫してやっていくしかないかなと思っています。
──終盤の勝負になると厳しいところが出てくるのでしょうか。
ちょっとしたところですけども…。プロだったらそんなに変わりませんから。 ただ、かなり早い段階から読み切って終息させるためには、かなり高い技術が必要になるので、誰もができることではないと思っています。
──見える時には、最後の詰めまではっきりと見通せるのでしょうか。
私はそういう経験があまりないのですが、観ていると、そういう勝ち方をしてきた方も中にはいらっしゃいますね。
麻雀も将棋もプレイヤーの性格が出る
自分の性格というのは、将棋に出るものなのですか。
凄く出ますね。棋力が高くなってくると技術的な面ではほとんど差がなくなってきますので、性格が凄く影響してくると思います。
棋風というのもありますが、この人はこういう性格かなと思うと、だいたい当たっています。
──純粋な読みの戦いなのに、相手の性格が影響するということでしょうか。
そうですね。危ない道に飛び込むか、安全なほうに行くか、性格が出るように思います。
名人はどちらですか。
以前はどちらかというと慎重な傾向が強かったのですが、最近は勝負を賭けるほうが多いでしょうか。いい面、悪い面があるとは思いますが。
──それは何か、大きな転機があったのでしょうか。
実際にそのほうが数字にもつながると思いますし、今の自分の状態を考えたときに、やはり長く接戦で行くよりも、早い段階から勝負に行くほうが合っているかなと思っているもので。以前は踏み込みが甘かったところがあったかと思うのですが…
やはり裏づけになるものが積み上がってきたから、そういう風に行けるようになったということなのでしょうか。
まあ、それで失敗することも多いので、どっちがいいとは言えないのでしょうが。 相手にわかってしまったら元も子もないので、バランスよく両方使い分けないといけないのでしょうね。
ということは、今、将棋界にいる人たちは、名人がそういう方向に変わってきたという認識をみんな持っているのでしょうか。
どうなんですかね。未だに鉄板流と言われることもありますし、手堅いと思われてるらしいのですが、それはそれで別にかまわないと思っています。
思ってくれる分にはかまわないですね。
若手に最先端技術を教わる
──技術的なことをちょっと離れた質問なのですが、名人になって、周囲から見られているからこうしなければならないということで、将棋も少し変えなければいけないという変化も出てきましたか。
いや、名人だから特に何かをするということはないのですが、現代将棋はもの凄い勢いで進化を続けていますし、その最先端で戦い続けたいということもありますので、わからないことがあれば自分で実践して解明していくということを積み重ねていきたいと思っています。 若い人も熱心ですし、よく勉強しているので。
そういう若い棋士の勉強会に顔を出されることもあるのですか。
あります。勉強することばかりですので。 特に今の若手は熱心ですから。
それは大事なことですよね。
大事なのですが、いつも教わるばかりで悪いなと思っています。
(次号へつづく)
目次
プロフィール
土田浩翔
1959年生まれ、大阪府出身。
最高位戦日本プロ麻雀協会所属。
鳳凰位、王位、最強位、十段位、プログランプリなど獲得タイトル多数。
独自の戦法土田システムを操り、「トイツの貴公子」の異名を取る。
森内俊之
1970年生まれ、神奈川県出身。
日本将棋連盟第69期名人。
名人位8期在位のほか、竜王、棋王などのタイトルも獲得。
「鋼鉄の受け」と呼ばれる強靱な受けに絶対の自信を持ち、順位戦では驚異的な勝率を誇る。
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