「手を見ず場を見よ」という格言があります。
自分の手より、他の3人を含めた全体を見ましょう、という意味ですね。
ルールを覚えたての時は、自分の手を考えるので精いっぱいだと思います。どの牌を切ればテンパイに近づくのか、どの牌を鳴こうかなど、考えることは無数にあります。
ただ、当たり前ですが、麻雀は1人のゲームではありません。他の3人にも、それぞれ事情や希望があります。ときどき他家の気持ちを想像して、場を俯瞰してみましょう。
将棋ファンの間では、盤面をひっくり返して見る「ひふみんアイ」という言葉が親しまれています。「ひふみん」の愛称で知られる加藤一二三・九段が、現役時によく、相手側に回り込んで逆から盤面を見ていたことに由来します。文字どおり、相手の立場に立って、考えていたわけですね。
(ちなみに加藤九段は2017年、「ひふみんアイ」という歌で歌手デビューもしています)
麻雀では、実際に他家の席に座ることはできませんが、「自分がこの立場なら何を目指すだろうか」と想像することはできます。
前回、残り局数が少ないときの考え方を紹介しました。この考えを応用すると、他家の戦術を推しはかることができます。
例えば、南3局で次のような点数だったとしましょう。親は、自分の上家です。親と自分が同点で競っており、対面が大きくリード、下家はリードを許して苦しい展開ーーーという場面です。
局が始まる前に、2つのことを想像できます。
1 下家はもう親もなく、逆転を狙って、高い手を狙うだろう。安い手は目指さないはずだ。
2 対面は局を進めたいから、安い手であっても早くアガりたいはずだ。打点より速さ優先だ。
ここで、下家がを鳴いたとしましょう。
下家が、のみの1000点だとは思えません。他の役やドラがあって、最低でも3900点ぐらいはありそうです。下家に振り込むと、自分がラスに近づくので、要注意ですね。
一方、対面がを鳴いた場合は、のみの1000点の可能性もあります。対面は、高い手をつくるより、局を進めることが優先だからです。
具体的な他家の手役、テンパイ気配、テンパイの待ち牌などを推測することは、中上級者でも難しいものです。しかし「この場面で、この人は何を目指すだろうか?」ということは、比較的かんたんに分かる時があります。
私は、麻雀が若い世代の学びに役立つと考えていますが、その理由の一つは、自然に想像力が鍛えられるゲームだからです。大人になると、どんな仕事でも日常生活でも、誰か相手方がいて、協力したり、利害がぶつかったりします。相手の立場で考えられる力は、人間関係を豊かにし、一生の財産となるでしょう。
さて、そうは言っても、「他家のことまで考える余裕はなかなか…」という方もおられると思います。
解決策の一つは、「自分の手牌を覚える」ことです。
Mリーグ2019レギュラーシーズンのMVPに輝いた魚谷侑未プロの著書「現代麻雀が最速で強くなる本」(鉄人社)に、2人で行うトレーニング方法が紹介されています。自分の配牌を覚えて交換し、ツモ牌と切る牌を言いあいながら進める訓練です(コラム「手配を瞬時に記憶!『二人麻雀』のススメ」)。
魚谷プロは、「(記憶できると)手牌には目線を送らずに場を見続けることが可能になるため、勝負どころで大変有利になります」と書いています。自分のことに時間をかけずにすむため、その分他家のことを考えられるわけですね。冒頭の格言「手を見ず場を見よ」の実現です。
いきなり13枚すべてを覚えることは難しいでしょうから、まず4枚、次は7枚、と少しずつ枚数を増やしていくのもおすすめです。ぜひ試してみてください。
※魚谷プロのMリーガー列伝「『自分には何もない』挫折したからこそみつけた人生の宝物」はこちらからどうぞ。
次回は、みんなが愛する「ドラ」のお話です。