前回、「リーチ宣言牌の裏スジの牌が待ちのことは、比較的少ない」というセオリーを紹介しました。
卓上でヨシ!麻雀暗記ノート 第51回 リーチ宣言牌に注目しよう
裏スジに関しては、かつては「リーチ者が切っている牌の裏スジは危険」という話が広く定着していました。
たとえば、序盤に
……
と切っている人がリーチをかけると、裏スジのやが危険、といわれていたのです。
実際にその通りのこともあるので、「やっぱり裏スジは危ないんだな」と、多くの人が思っていました。
しかしその後、数多くの牌譜研究で、裏スジが特にほかの無筋の牌に比べて危険度が高くないことが分かってきました。地道な科学的アプローチによる成果ですね。
裏スジは危険牌の一つではあるのですが、クローズアップする項目ではないという認識が広がり。最近出版される戦術本には、裏スジの記述はあまり見当たりません。
ただ現代でも有効なのは、「序盤に5が切られているリーチには、裏スジの1と4、あるいは6と9が危ない」というセオリーです。
理由は、序盤である程度5ブロックが見えていて、かつ や のような形を持っていれば、さっさとやを切ることが多いためです。
5は真ん中の貴重な牌ですが、あとで他家への危険牌にもなるので、使わないのなら早めに切った方がいいのですね。
また、第30回「待ちの強さを意識しよう」で紹介しましたが、14待ちと69待ちは、リャンメン待ちの中でもっともアガりやすい優秀な形です。その好形が決まるのであれば、5は惜しくありません。
早々に5が切られると目立つので、もしリーチを受けた場合は、「端っこアタック!」といって安易にその色の1や9
を切らないように気をつけてください。
ところで先日、最高位戦日本プロ麻雀協会の中村英樹プロのツイッターを見ていると、「端っこアタック」は中村プロが命名者だそうです。確かに、よく考えると「アタック」じゃないですね…。
端っこアタックて今みんな使ってるけど、命名したの俺だから、これはマジ。10年ぐらい前に勉強会でベタオリ時に言ってなんでディフェンスなのにアタックなんですか?って笑い取れてなんか流行ったの。特許取っとけば良かった?
— 怪しすぎる阿保 (@4cm1syanten) February 11, 2022
さて、今日のテーマは「2枚以上ある牌でしのごう」です。
リーチを受け安全牌がないとき、手のなかに複数持っている牌があれば、それを切ることを積極的に検討しよう、というセオリーです。
主な理由は、もし1巡目に通れば、次巡の安全も確保できるからです。
いま、リーチを受けて、二つの選択肢があるとしましょう。
A 1巡目にを切る。放銃率は10%(通る確率は90%)。
もし通れば次巡にを切る。放銃率は10%(通る確率は90%)。
B 1巡目にを切る。放銃率は15%(通る確率は85%)。
もし通れば次巡もを切る。すでに安全牌なので放銃率は0%(通る確率は100%)。
一見、Bはとても危険に見えますね。しかし、2巡あわせて考えると逆転します。
Aを選ぶと、2巡とも放銃しない確率は、0.9×0.9で0.81。81%です。
Bを選ぶと、2巡とも放銃しない確率は、0.85×1で0.85。85%です。
つまり、少し危ない牌であっても、1巡通ったときに次も通せるメリットが大きいのです。
逆にいえば、少し安全そうな牌でも、毎巡違う牌を切っていくのはリスクが高いんですね。
【2/15 Mリーグ2021 第2試合結果】朝倉康心が攻守に冴えわたり完勝!萩原聖人は大きなアガリで迫るも2着まで!
2月15日のMリーグ第2試合、東2局1本場で、親の伊達朱里紗プロは、内川幸太郎プロのリーチを受けて、このような状態になります。
内川プロの河 待ち
伊達プロの手 ツモ ポン
内川プロはほとんど字牌や端牌しか切っておらず、河が強い状態で、伊達プロには安全牌がありません。
解説の渋川難波プロは、選択肢の一つとして「で3巡しのぐ道も…」と述べます。これはまさに複数ある牌を切って粘る発想ですね。
(ただ、を切ると1シャンテンから2シャンテンに戻るので、実際には、伊達プロはを切って、自分がアガる可能性を追求しました。その後、狙い通りテンパイします)
かつては、裏スジと同様、「自分がアンコで持つ牌やそのスジ牌は危険」という話が通説になっていました。「自分が多く抱えている牌は、他家がツモりにくいので、そこが埋まらないまま最終形になって待ちになりやすい」という理由です。確かに、そういうケースもあるでしょう。
ただこの説も、研究が進み、アンコやそのスジ牌が極端に危険ではないことが分かってきて、現代では、それよりも2巡、3巡の安全を確保できることが重くみられています。
また、この戦術には、自分の安全度をあげるとともに、他家を楽にさせない効果もあります。
馬場裕一さんの著書「バビィの麻雀捨て牌読み」(マイコミ麻雀BOOKS)には、梶本琢程さんが直面した以下の場面が出てきます(67ページ)。
リーチ者の河
自分の手牌 ツモ ポン ドラ
早いリーチに対して安全牌はありません。
が3枚あるので、ワンチャンスで切りも良さそうですが、梶本さんの選択は切りです。
梶本さんは「自分がを切ると、楽になる他家がいる」と主張します。は自分が3枚持っているので、他家はあまり持っていません。つまり、自分がを切ることで、他家が「やった、が通るぜ!」と喜ぶ確率は高くない。
一方、は自分に1枚しかなく、他家が多く持っていることが多い。ここでを通すと、他家が喜ぶ可能性が高い。かつ、次巡もまた自分が新しい危険牌を切ることになりやすい。自らが地雷原を先に歩いて、他家がノーリスクでついてくるのは損だというわけです。
その点、を3巡切れば、安全牌は増えず、他家も苦しみます。他家が放銃すれば自分の失点はゼロですむので、他家に楽をさせない工夫も重要なのですね。
ただ今回の話も、「どんな時でも単純にトイツやアンコを切ればよい」と覚えるのは禁物です。
例えば2軒リーチを受ければ、リーチ者同士で放銃する可能性が高まりますし、1巡ごとに安全牌が増える期待も大きくなります。
であれば、毎巡、その時点で最も安全そうな牌を選び続ける対応も、検討するべきでしょう。
このように、基本のセオリーを踏まえたうえで、状況に応じて変化をつけられると、また一歩強くなれると思います。
次回は、同様に安全牌がないときの考え方の一つ、「残りスジ」をご紹介しましょう。