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熱く、激しく、美しく。そして――。幕を開けた舞踏会【予選第1節Aブロック1卓】

熱く、激しく、美しく。そして――。幕を開けた舞踏会【予選第1節Aブロック1卓】

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その違和感に気付いたのは、彼女の姿をカメラに収めている時だった。

オープニングでは巻き下ろしていた現シンデレラ・山本ひかる(RMU)の髪型が、対局時は右側にまとめられていた。もしやと思い、本人に尋ねてみた。僕の予感は的中した。
「そうです。最初の髪型のままだと手牌カメラに被ってしまうので、髪型を変えたんですよね」
対局番組では、右利きのプレイヤーの手牌は左手側のカメラで捉えている。その画角の妨げにならないように配慮しつつ、自分のチャームポイントのPRも同時に行っていた。山本の左耳に光るのは、をかたどったピアス。と言えば――

1年前のシンデレラリーグ決勝で、ヤミテンの三倍満をツモアガった時の牌だ。決して強い言葉を口にしなくても、その立ち居振る舞いからは現シンデレラとして十分すぎるほどの覚悟と気高さを感じられた。
そう、あれから1年。新たな舞踏会の幕が、この日上がったのだった――。

新鋭女流雀士たちによる祭典、「麻雀ウォッチ シンデレラリーグ」。通算3度目の開催となる今大会は、新たに出場枠争奪戦が行われるようになり、総勢34名の女流雀士が出場している。最高位戦日本プロ麻雀協会、麻将連合、日本プロ麻雀協会、RMUから集った選りすぐりのシンデレラ候補が、いよいよガラスの靴をかけた本格的な戦いを始めるのだ。

前年度と若干のシステム変更がされたが、予選下位の選手にもチャンスの目が残る点は従来通り。注目すべきは各ブロック予選1位の恩恵で、なんとダイレクトに決勝進出を決めることができる。この日より始まる予選第1節では前半4戦の対局が行われ、その結果次第で後半4戦の戦いもかなり戦略的になりそうだ。

注目の開幕戦は、いきなり現シンデレラの山本が登場。さらに高い守備力が持ち味で、3年連続の出場を決めている都美(日本プロ麻雀協会)、出場枠争奪戦の1st ROUNDから舞踏会のチケットを手にした松井夢実(最高位戦日本プロ麻雀協会)、相川まりえ(最高位戦日本プロ麻雀協会)という顔ぶれとなった。
じつに魅力的なプレイヤーが集まったが、戦前から個人的に注目していたのが松井だった。

昨年、最高位戦史上初となる女流新人王に輝いた松井は、多くの関係者からその実力を高く評価されている逸材だ。新人王戦では他者を寄せつけない圧巻のコールド勝ちを決め、その対局内容も申し分ない。新人離れした引き出しの数々を随所で披露していたのだが、聞けば麻雀歴は13年にも上るというから驚きだ。
「最初に麻雀を始めたキッカケは天鳳でした。実家は岐阜県なんですけど、コンビニに行くにも自転車がいるし、カラオケに行くまで自転車で30分みたいな環境で。なので、家に引きこもりがちだったんですよ。それで家でできるゲームをと思って見つけたのが天鳳でした。最初は仲のいい友達と遊ぶゲームのうちの一つくらいだったんですけど、18歳になって麻雀店でも遊べるようになって、それからはずっとお店で遊んでいました」
オンライン麻雀から、リアル麻雀へ。あらゆるルールで培われた経験は、松井を確かな強者へと育て上げていた。
前評判通りの実力。それは初戦から存分に発揮された。

東3局2本場、相川がのポンからホンイツを目指した進行を取る。

一方、松井はドラの切りでテンパイ。チートイツ・ドラ2・赤で打点は十分。ここは待ちのヤミテンとした。

相川は、山本が切ったをチーして1シャンテンに。ポンからの受けを残す選択も取れたが、ここでは1枚も見えていないカンの受けを重視している。

直後、松井のもとへ訪れたのはだった。場には1枚切れで、自身からは3枚見えということで、景色は良好。相川には危ないが、ここは勝負どころと見てを選択した。その狙い通り、たしかには山にいた。

つかんだのは相川!

会心の12000を決め、強烈な一撃を実らせた。

その後も加点を続けていく松井。決定打は南3局2本場の親番で訪れた。をポンして、をアンコに。役々・ドラのテンパイを入れると――

役満・九蓮宝燈さえ見える牌姿から相川がドラを放つ。

これを松井が捉え、12000は12600のアガリを成就させた。

このリードを守りきり、松井は初戦を61800点持ちのトップで終えた。まさしく圧巻の立ち回りだったが、この人が黙って戦いを終えるわけがなかった――。

2回戦東1局、山本がドラを重ねてピンフ・ドラ2・イーペーコーのテンパイを入れる。ヤミテンでも満貫だが、まだ4巡目。ここはさらなる高みを目指し、果敢にリーチをかけた。

これが功を奏し、鮮烈な3000-6000を成就させた。初戦ラススタートだった相川は、ここでも親かぶりの悲運に見舞われた。

続く東2局では、山本の独走を阻止するべく都美が芸術的なリーチをかけた。1枚目のが手出しで、が当たるようには到底思えない。麻雀に芸術点があるとしたら、この時点でかなりのハイスコアをマークしそうだ。

そんなリーチを受けつつ、親の山本がを勝負してタンヤオ・ドラ2・赤のテンパイを入れる。ここに飛び込んだのが――

国士無双の2シャンテンからスジのを打った松井だった。

前局に続いての12000点の加点。慣らし運転は終わったとばかりに、山本の攻勢が続いた。
そんな現王者の猛攻に待ったをかけたのは――

日本プロ麻雀協会所属、「借りてきた猫」都美だった。余談だが、筆者はこのポーズがストライクすぎたので、秒でスクショを取った。

東4局、を持ってきて1シャンテンとなった都美。789の三色も見えるが――

ここは切りを選択した。都美の目から見て、が3枚、が4枚見えている絶好の場況だ。マンズターツがリャンメンのため三色は確定しておらず、それよりは自信のあるカンでイーペーコーを狙おうという算段だ。

一方、相川にもとんでもない手が入っていた。ドラ3・赤2の1シャンテン。この手は何としてでもアガりきり、初戦ラスからのリカバリーを図りたいところ。

また、を仕掛けた山本も、ホンイツの1シャンテン。手がぶつかりそうな予感が漂うなか――

先制リーチを入れたのは都美だった。を引き入れ、狙い通りのカン待ちでリーチをかけた。

そこに松井も参入! 同巡、タンヤオ・イーペーコーのカン待ちリーチで応戦した。そしてもちろん、この人が黙っているはずがない。

合計5枚のドラを従えて、相川がやってきた! 熾烈すぎるベタ足インファイトの結末は――

松井がをつかんで決着!

会心の7700をアガり切り、都美が山本にグッと迫った瞬間だった。

その後も南場が怒涛の展開で進行していく。南1局3本場、松井がリーチ・ピンフ・ツモ・三色・ドラの3300-6300をアガったかと思えば――

南2局には、その加点をそのまま奪うかのように、山本が松井からリーチ・チートイツ・ドラ2の親満を直撃。

南2局1本場では、その松井が再びハネマンを和了。メンホンのリーチでをツモりあげ、きっちり裏ドラも乗せた。こんな派手な展開が続くと――

苦しいのはツモられ続けて失点している相川だ。松井と1100点差のラス目に落ち、オーラスを迎えた。

熾烈なスピード勝負が予想されそうな点棒状況で、松井はがアンコ! をリャンメンチーして、ドラのを叩き切った!

相川からしてみれば、松井がリャンメンチーから入っていることから時間が残されていないように見える。カン待ちのリーチで勝負をかける! 両脇が早々にを切り飛ばしていることからも、悪くない待ちに思える。実際、なんとは4枚山にいた。そして――

1シャンテンの山本から出アガリを決め、辛うじて3位に滑り込むことに成功した。

上3人とはずいぶんと離されてしまった相川だが、まだ予選の8分の2を終えたばかり。最後の着アップもあり、まだまだ巻き返しは可能だ。

だが、3回戦になっても手が入るのは他家ばかり。東1局、山本はダブをポンしてこの牌姿。ドラと赤を抱え、あっさり満貫確定だ。そして極めつけは――

都美が、わずか5巡でツモり四暗刻のリーチをかけた。の変則三門張だ。

そして松井もタンヤオ・三色・赤のテンパイが入る。だが、待ち牌のは都美に暗刻の牌だ。そうなると、山本と都美の勝算がだいぶ高そうだが、松井は果敢にリーチを宣言した――

カン待ちで!
無論、三色を見落としたなどという訳もなく、松井はこの待ちにすることを決めていたと対局後に語っていた。2巡前に山本がを切っており、は都美に中スジの牌。リーチと親の高い仕掛けに囲まれている局面で、比較的安全な牌を通しつつ、勝つ公算が高い待ちにかけた。タンヤオ・赤・ドラと打点も十分なため、三色に固執する必要はないというわけだ。そんな松井の狙いは――

一瞬のうちに結実した!

麻雀に芸術点があるとしたら、フルマーク待ったなしだ。山本から電光石火の8000点をアガり、松井が難局をものにした。
しかしながら、この半荘の主役は彼女ではなかった。結果から言おう。3回戦のトップは、強烈な跳満ツモを2度も決めた都美だった。

まずは東2局、ドラ待ちのチートイツを見事にツモりあげ――

終盤の南3局、親番でコレである。
おわかりいただけただろうか? 1巡目でこの1シャンテンである。

道中、カンのテンパイ取らずなどの選択を見せ、フリテンながら三門張にこぎつけてリーチ! これが――

一発ツモ! 即リーなら満貫だったが、迷いない手順で渾身の6000オールに昇華させた。

この2つのアガリが決め手となり、3回戦は都美が初めてのトップを飾った。しかし初戦、2戦目とも素点で浮いている2着だったため、トータルポイントは100ポイントを越えた。
一方――

3戦を打ち終えて、ここまで4-3-4という成績の相川の心中たるや、いかほどか。3回戦終了時点でリーチ率、副露率ともに極端に少なく。たまに手が入った際にもめくり合いに負け続け、親番ではひたすら高打点を親かぶる。成就させたアガリは満貫2回に2600が1回だけという、目を覆いたくなるような展開だ。
けれど、それでも投げ出すわけにはいかない。選ばれし者が立つ舞踏会を、このまま何もできずに立ち去るわけにはいかない。出場枠争奪戦の2nd ROUND最終戦、相川は条件クリアのためにチートイツの北待ちリーチを、2度の見逃しの末にツモりアガってみせた。そんな奇跡を再びつかみ取るため、相川はこの日の最終戦へと向かった。

最終戦は起家スタートだった。アガリ連荘ルールのため、親権を死守したければ何がなんでもアガらなければならない。

どれだけ後手を踏もうが、もはや撤退は許されない局面だった。

何度も、何度も、相川は前進し続けた。

そのたびに彼女を不運が苛んだ。いや、もはや不運という言葉さえ陳腐に聞こえてしまう。あっという間の箱下寸前。最終戦の東場、相川は5局連続失点という憂き目に遭っていたのだから。
麻雀を打っている者ならば誰だって経験する不運な展開。それをはるかに凌駕する不遇に大舞台で見舞われ続け、いつ心が折れたっておかしくない。

そんな心を繋ぎ止めるには――

会心のアガリをものにする以外にない! 南1局、最後の親番という土壇場に来て、相川が6000オールを成就!

続く南1局1本場は、松井がピンズチンイツの三門張のテンパイを入れているなか、値千金の1500は1800のアガリを拾った。

さらに南2局4本場、メンタンツモドラ1の2400-4400をアガりきり、2着目へと浮上。ラス前で、トップ目の都美とは8600点差。待望のトップ奪取へ向けて、現実的な点差へとこぎつけた。
長く、暗いトンネル。その中に、ようやく光が差し込んだ。ここで逆転に成功すれば、それだけで相川のシンデレラストーリーが一つ生まれそうだ。だが――

これは、相川だけの物語ではない。4人が4人、それぞれの目標を見据えて物語を紡いでいるのだ。
南3局2本場、断ラス目だった山本が跳満をツモり、相川を1700点まくって3着へと躍り出た。

山本の手順は、じつに見事だった。678の三色に照準を定め、ドラのを生かしつつカンへのケアを軽減させる切りとし、次巡にを引くとをトイツ落とししてテンパイを外したのである。ソーズの伸びを意識し、点棒状況を加味して跳満クラスの手に仕上げようという強烈な意志あるトイツ落としだった。

かくして迎えたオーラスの点棒状況は上記の通り。全員にトップの目が残る僅差の中――

親の山本にタンヤオつきの先制リーチが入った。

暫定トップ目の都美もをポンしてテンパイが入っている。山本のリーチを受け、カンからのシャンポン待ちへと変化。

が、ここで山本の当たり牌であるをつかんでしまう。満貫のテンパイが入り、アガればトップ。都美の選択は――

を切って迂回を選択! も通ってはいないが、よりも放銃するパターンが圧倒的に少ないことは間違いない。すでには自身の河に放たれてはいるが――

くっつけば問題ない! カン待ちで復活を果たし、当たり牌を見事に吸収してみせた。そして――

相川に条件を満たしたタンヤオ・チートイツのテンパイが入った。打牌選択はの2種類。またしても、またしても、相川の打牌候補に当たり牌が含まれていた――

場にはが1枚放たれており、アガリを目指すのであれば相川の選択は至極当然だ。だが――

その一打は彼女の運命を左右しかねないほどに重く、鋭かった。

番組のエンディングで、相川は目を赤く腫らしながら、それでも精一杯の笑みを浮かべていた。残り4半荘の戦いが厳しいものであることは、誰よりも彼女が承知しているはずだ。それでも微笑んだのは、彼女のプロとしての矜持なのだと思う。
ついに幕を開けた舞踏会。その熱く、激しく、美しく、切ない物語の数々は、これから次々と紡がれていく――。

この記事のライター

新井等(スリアロ九号機)
麻雀スリアロチャンネルの中の人。
ナンバリングは九号機。
スリアロでのポジションをラーメンに例えると、味玉くらい。
お酒があれば、だいたい機嫌が良い人です。

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