全国に50店舗の麻雀店を展開するマーチャオ・ウェルカムグループは、ネットで見られる「麻雀スリアロチャンネル」での動画制作配信業に加え、デイサービス業も手がける等、幅広く事業を展開している(2020年2月現在)。グループ代表を務める山田昌和さんは、今後少子高齢化が進むことを踏まえ「麻雀を楽しんで頂き、それを認知症予防にもつなげたい」と新規事業として始めたデイサービスを、将来的には日本中に広げていきたいと考えている。
そこで今回は「デイサービス ウェルチャオ」を立ち上げた施設長・廣田将人さんに話を聞いた
廣田将人(ひろた・まさと)プロフィール
1991年、福岡県生まれ。O型、ふたご座。明治学院大学社会学部卒。デイサービス ウェルチャオ施設長。好きな役は役牌。
デイサービス ウェルチャオのコンセプトとは?
「マーチャオグループでは、健康麻雀も展開しているんですが、麻雀を使って社会貢献が出来ないかというコンセプトで始まったのが、ウェルチャオの出発点です。麻雀は、職員が3~4人いなければ成り立たないので、デイサービスのレクリエーションとしては敬遠されがちです。絵を描いたり、歌を歌ったりすることは、ひとりかふたりの職員で出来ます。でも絵を描いたり歌を歌うデイサービスには行きたくないという男性の方も多くいらっしゃいます。そういった方たちに興味を持って頂けるよう、麻雀に特化していることが特徴です」
「オープンしてわかったことは、何十年も麻雀をやりたくてもやれる環境がなかったという方がたくさんいらっしゃったことです。実際、家では起き上がれないけど、ちょっとだけでも麻雀がしたいと言って来られた方もいました。その方はお亡くなりになられてしまったんですが、最期に大好きな麻雀をして頂けたことには、意義があったのかなと捉えています」
「もう麻雀は出来ないと思っていた方に麻雀ができる場所を提供する。これからは全国いろんなところで求められていくんじゃないかなと思います」
どういった利用者の方が多いのですか?
「平均年齢は80台前半、デイサービスでは若い方です。男女比は男性7割、女性3割。一般的なデイサービスは男性2割、女性8割なので、比率が真逆であることは、男性が楽しめるサービスが少ないことの裏返しだと思います。手積みだった戦後の麻雀ブームを体験されている世代でもあるので、ここで全自動卓を初めて体験された方もいらっしゃいます」
レクリエーションとして、麻雀を運営するにあたって配慮されていることは?
「マナー面に関しては、めちゃくちゃ寛容にしています。もちろんポンやチーの発声はお願いはしているんですけど、忘れてしまうこともあるからです。ただ声を出すだけでもいいですよというアプローチの方法もあるので、トラブルというよりも元気な声を出そうねといった方向に持っていったりしています。ロンを当たり~!と発声される方には、周りでフォローして盛り上げて、トラブルにつながらないように配慮しています」
「麻雀店でのマナー面から見ると、非常にゆるいとは思いますが、それを皆さんの笑顔にどれだけつなげられるかということを考えながら、全体の雰囲気作りをしています。やっぱりどこかしら不自由なために打つのが遅くなったり、牌をこぼしてしまったりすることは起こるので、そこはみんなで優しい気持ちでやっていこうねって感じです」
デイサービス ウェルチャオの1日の流れは?
「基本的には午前中は体操、入浴、機能訓練プログラム。昼食を食べてから麻雀を楽しんで頂きます。朝9時30分に全員で一緒に体操をした後、入浴のお手伝いをしたり、ご希望される方には個別に筋力をつける機能訓練プログラを行います。麻雀は座っている時間が長いので、足腰の強化だったり、握力の強化だったり、それぞれのご要望に合わせたトレーニングです。お昼ごはんもパーキンソン病などで手が震えてしまう方もいらっしゃるので、そういった方の食事のお手伝いをさせて頂き、それ以外の時間は麻雀を思いっきり楽しんで頂くという流れです。午後の麻雀も1時間おきに全員でストレッチ程度の体操を入れながら行っています。そして夕方になったらみなさんを送迎していくという1日です」
麻雀プロがゲストで来ることも?
「月に4~5回、麻雀プロと打てる日を作っています。みなさんめちゃくちゃ喜んでくれて、プロからアガった~!とか、やられたけどさすがだ~!とか、ストレートに感情を伝えてくれます。プロからアガったことを、家で家族にも話してくれているようで、とても楽しんでくれています。CS放送のモンド麻雀プロリーグを見られていて、水瀬夏海プロ(日本プロ麻雀協会)が大好きな利用者さんがいるんですが、夏海プロが来られることを内緒にしていたら目の前に現れて、なんで!?と驚き、喜んでくれたこともありました」
働くにあたって必要な資格はありますか?
「介護職員として働くのであれば、資格はいりません。ただ運営していく上で必要な人員配置というものがあります。看護師、生活相談員(社会福祉士等)は必ずいなければいけません。他にも理学療法士、作業療法士、あん摩マッサージ師等の資格を持った機能訓練指導員もデイサービスでは重要な役割です」
デイサービス ウェルチャオの施設長になられたきっかけは?
「大学時代、麻雀店・マーチャオでアルバイトをしていたんです。そうしたらある日、マーチャオの山田昌和代表から一緒に草野球せえへん?と、いきなりLINEが来たんです。面識はまったくなかったのですが、僕が野球をやっていたことを知ってくれたご縁で、マーチャオの草野球チームに参加させて頂けることになりました。この草野球が縁で、こんな仕事やってみない?と言われたのが今の仕事です。24歳の時でした」
もともと介護の仕事に興味を持たれていたのですか?
「正直介護がやりたいとはまったく思っていませんでした。仮に介護じゃなくても新しいことやるから一緒にやらないかと言われれば、なんでもやっていたと思います。新しいことをゼロから作り上げることに興味があったので、市場調査から場所の選定まで、すべてイチからやっていきました。それがたまたま介護だったし、自分に合っていたという感じです」
「介護って入浴介助や食事の介助など、“してあげる”というイメージが強いんですけど、自分の場合は若いので、利用者のみなさんから可愛がってもらえているし、すごく甘えています。私自身、介護というと大変なんじゃないかと身構えていた部分もありましたが、そこだけじゃないということはみなさんにもっと知ってほしいと思っています。ただ寛容じゃないと続かない部分はあるかもしれません。そういう点でも、麻雀店でのアルバイト経験が生きていると思います」
麻雀店で働いていた経験のどういった部分が役立ったのでしょうか?
「マーチャオでは、接客サービス業の基本として、お客様の表情を見ることを学んできました。楽しんで頂けているのか、何か嫌なことはないか、不便はないか。もしも楽しくなさそうだったら帰り際に声をかけようとか、表情を見て汲み取って働いてきました」
「だから介護という観点からではなくて、麻雀店で働いてきたホスピタリティの感覚そのままで来ているので、ここに来ている方だと体調の変化などにも気づくことが出来ます。介護の現場では転倒だったり、怪我をしてしまう危険性を常にはらんでいるのですが、私のように介護経験がなくても、あの人今から何かしようとしているなとか、危ないところがあるなとか、気づもあり、目配せも出来るので、そういう部分にすごく活きています。麻雀店で働いた経験は、どこに行っても役立つ武器になると思います」
廣田さんにとってマージャンとは?
「麻雀は自分を壊して自分を作ってくれたものです。麻雀を覚えたから道を外れたこともあったけど、それでも麻雀に関わって仕事が出来たり、麻雀を通して出会った人たちに助けられて今生きているのかなと思うので、麻雀を覚えていなかったら全然違う人生だったんだろうなと思います」
インタビューを終えて
「施設長という立場ではありますが、利用者の皆さんから見たら孫みたいなもので可愛がってもらっているから、そこも武器にしながらやっているような感じですね」と屈託なく笑う廣田さんは、小学校を卒業するまでは祖父母、両親、姉と6人で暮らしていた。「福岡県宗像市というすごい田舎で育ったんで、近所のおじいちゃんおばあちゃんは、全員自分のおじいちゃんおばあちゃんという感じでした。それこそ悪いことをしたら、親には報告されないけど、その場でげんこつ食らうみたいな町でした」と幼少の頃から、町中のおじいちゃんおばあちゃんから愛されて過ごしてきた。
そんな廣田さんは令和2年2月22日に入籍された。「子供が生まれたらここに連れて来たいですね」と、職場でのお披露目を楽しみにしている。
◎写真:佐田静香(麻雀ウォッチ) 、インタビュー構成:福山純生(雀聖アワー)