「麻雀ウォッチ シンデレラリーグ2020」には、初出場の選手が3名いる。出場枠争奪戦を勝ち上がった松井夢実と相川まりえ、そしてこの日登場した梅村日奈子だ。
なぜ、梅村は初出場ながら出場枠争奪戦を挟むことなく、本戦の出場権を得たのか? 彼女を知る者ならば、そこに誰も異論は挟まないだろう。
第8・9期将妃。麻将連合の女流最高峰タイトル戦で史上初となる連覇を成し遂げ、女流トップ選手たちが頂点を競う「四神降臨2020女流王座決定戦」でも決勝進出を果たすなど、その実力をまざまざとアピールしている。プロ歴はわずか3年ながら、プロ入り前からオンライン対戦麻雀ゲーム「天鳳」で磨かれた腕で、早くも麻将連合の女流看板選手の一人に位置するような存在感を放っている。
「でも、天鳳を始めた頃は本当にヘタクソだったんですよ。1300-2600が言えるかどうか、くらいで(笑)」
そんな梅村の転機となったのが、木原浩一(日本プロ麻雀協会)との出会いだった。木原は天鳳を通じて麻雀家庭教師を実施しており、その成果もあって着実に成長を遂げたという。
「このまま、麻雀の思考で木原さんをトレースできるようになりたい。いっそ、木原さんになりたいです(笑)」
ちなみに梅村のキャッチフレーズ「流氷のコロポックル」は、木原のキャッチフレーズ「流氷の紳士」のオマージュである。梅村自身は、流氷はおろか海もない埼玉県出身である。気を悪くされた埼玉県民がいたら申し訳ない。僕も埼玉県民なので、勘弁してほしい。
さて、そんな梅村の初お目見えとなるこの日、対局者は過去のシンデレラリーグで実績十分なプレイヤーばかりとなった。初代シンデレラの中山百合子、昨年度ファイナリストの柚花ゆうり、同セミファイナリストの塚田美紀。いずれも強敵ばかりだが、だからこそ梅村の真価が問われる一戦と言えた。
「昨日は3時くらいまで眠れませんでした。対局前は緊張しちゃって眠れなくなるんですよ。それには慣れているんですけど、この日が一番緊張しました。将妃決定戦の時よりも。なんだかんだ、私が弱いとμ(麻将連合)が弱いと思われちゃうので。μを背負おうというほどおこがましいことを思っているわけではないんですけど、連覇している私が負けてしまうと『この程度かよ』って思われてしまいかねないので」
麻将連合からの出場者は、彼女一人だけ。梅村の評価は、本人の意向に関わらず団体の評価に直結してしまうような状況だ。かくして、梅村の「負けられない戦い」が始まった。
1回戦は東1局から快調な滑り出しを見せた。柚花とのリーチ合戦を制し、梅村が8000和了。
続いて東3局、塚田が赤2のチーテンを取ったが――
テンパイ打牌のを捉えた梅村がメンタンピン裏、12000点の加点に親番で成功した。このリードを守り切り、梅村が初戦トップを飾った。
続く2回戦は比較的平たい点棒状況での進行となった。オーラスを迎えて中山と1200点差の梅村は、を引き入れて待ちのリーチをかける。
一方、中山もチートイツの待ちで応戦したが――
ここは梅村が勝利。中山のを捉え、2600の出アガリで見事に連勝を飾った。
前半2戦で「梅村強し」を視聴者にアピールした格好だが、彼女の快進撃はこれだけに留まらなかった!
3回戦では、梅村の別の一面も見られた。東3局2本場、南家の梅村がオタ風のポンから手牌を進行させていく。役牌はのみで、門前では仕上げにくい手格好。ここはオタ風の仕掛けで他家をけん制しつつ、ソーズのホンイツとチャンタを天秤にかけている。
次巡、がアンコになると、打。を切ればペンのテンパイだが、チャンタの片アガリでは心もとない。ここはソーズに染めて打点アップと最終形の強さを意識した。ポンから一旦単騎に構えて、待ちごろの牌での単騎変えや、リャンメンやカンチャン待ちに変化したらを雀頭にするという手もある。
梅村はこの残しがピタリとハマり、待ちのテンパイへ。さらに――
をアンコにして打点は5200にまで跳ね上がった。
一切のムダがない手順で5200は5800を中山から出アガり、梅村は開幕3連勝という最高の結果を収めた。
最終戦では小さいラスを引いたものの、この日を終えて梅村は100ポイントオーバーの好スタートを切った。Aブロック2位に収まり、次節の結果次第で暫定首位の都美をもかわし得るポジションだ。
颯爽と、軽やかにその存在を視聴者に植え付けた超新星。小さな巨人が、その足跡をくっきりと舞踏会に残した――。