(何でこんなことになってしまったのだろう…。)
Final♯2・南3局1本場、鴨舞がガラスの靴から最も遠ざかった瞬間だ。
Finalに進出したシンデレラ4人の中で、最も知名度が低い鴨舞は、Finalに進出したシンデレラ4人の中で唯一、1次予選から出場している。シードをもらえなかったからだ。
それでもいい。予選を勝って、こうして本戦に出られたのだから。
昨年行われたシーズン2において、鴨舞は1次予選37位という低調な成績で、カメラの前にたどり着くことなく敗退している。大舞台で輝くシンデレラたちを、羨望の眼差しで見ているしかなかった。
今大会において、鴨舞が最も敗退の危機にさらされたのは、3次予選の3回戦終了時点だった。△1.9・△17.7・△26.2…3戦で積み重ねたマイナスはトータル45.8。アガリが遠く、ポイントをプラスすることさえできない。今年もまた、誰にも知られることなく、ひっそりと終わってしまうのか。その可能性は十分にあった。
(今年もダメかぁ…。)
弱気の虫が顔をのぞかせたが、そこから一念発起の2連勝で3次予選を通過。そして予選Finalを勝ち上がり、8人目のオフライン予選通過に手が届いた。普段のリーグ戦ではしない選択で、一発勝負をものにしたが、かなり危うい勝ち方ではあった。
すべては、3代目のシンデレラになるために。
逆境に耐え、思い切った選択をし、みんなと喜びを分かち合う。
「鴨」という名字を覚えてもらうために、写真は常にネギを持って撮った。ヘアアクセサリーも鴨とネギのローテーションだ。インタビューでは、ソーズはネギだと言い張った。予選で負けていったシンデレラたちを昨年の自分と重ね合わせ、その想いを背負って戦いたくなった。みんな、私を見ろ、と。
鴨舞には、周囲から自分がどう見えるかという真っ直ぐで客観的な視点と、思いついたことを最後までやり抜く粘り強さがあった。鴨ではなく、まるで本物のネギのように、泥くさいシンデレラだ。
本戦会場に行くと、仲間も一緒にネギを持ってくれた。1度ネギのぬいぐるみを電車に忘れてしまった時は、代わりに本物のネギを買ってきたこともあった。その日は、会場にネギの青いにおいがしたという。
愚直に、前に、納得いくまで、繰り返す。派手さがなくても、きらびやかさがなくても、鴨舞には泥水をすすり這いつくばって前に進むしぶとさと、強い信念があった。
2人の子どもたちの存在は大きかった。本戦出場をお祝いしてもらった時のチョコレートケーキは、涙でしょっぱかったかもしれない。
「支えてくれる家族にはいつも感謝です。」
これは鴨舞本人の声であり文章だ。一字一句変えないで記しておく。
どちらかと言うとまだ世間に認められにくい【麻雀プロ】として、同じ志を持った仲間たちと今宵、最高の卓につく。3代目のシンデレラになるために。
【♯1】
思い返せば、麻雀の神様はいつも鴨舞の味方だったのかもしれない。例えば、東1局はどうだろう。
対面のみあが放つ先制リーチに対し、親番の川上レイが追いかけリーチをぶつけた。開局からやる気満々の2人を尻目に10巡目、鴨舞にもテンパイが入る。が直前に切られていて、は比較的打ちやすい牌だった。
待ちテンパイ、今なら分かる。でもこの時は、よく確認しないままフワッとに手をかけてしまった。
直後に切られたにロンの声が出ないまま、川上の12000をただただ見ているしかなかった。痛恨のアガリ逃しに、思わず顔が歪む。
鴨舞にようやく手応えのある配牌がやってきたのは、東2局4本場のことだった。
自風のポンから発進し、
最後は高めのかツモで3000・6000になるテンパイを組むも、
川上のリーチ(待ち)の一発目に当たり牌のを持ってきてしまい、ジエンド。8000は9200の放銃となり、ついにラス目に落ちる。
しかし、痛手を負い、極寒に耐えてきた鴨舞に、ついに春が訪れた。
東3局0本場に2000・4000をツモってラス抜けすると、続く親番で
6000オールをアガってトップ目に立つ。
南1局は、酒寄の先制リーチに勝負し、ダブドラのを活かして8000の加点に成功。
南3局0本場にも5200をアガり、2着目の川上レイにオーラス跳満ツモ条件を突きつけた。
ちなみに、結果は、みあが2巡目にリーチを宣言すると、川上から8000のアガリで、♯2に向けて素点を回復して終局となった。この横移動は、鴨舞にとって悪くない。大丈夫だ。いける。
【♯2】
2位の川上と65.0ptもの大差を持って♯2に臨んだ鴨舞だったが、東1局でいきなり優勝ポジションから滑り落ちることになる。
♯1で2着だった川上が、6000オール(リーチ・一発・ツモ・中・ドラドラ)をツモって、一撃で♯2のトップ目に立ち、優勝ポジションになると、
ここまで長い間辛酸をなめていた酒寄も、東2局0本場に、立直・赤・赤・裏3の12000を、川上からアガって息を吹き返す。♯2のトップ目はもちろんのこと、優勝へのトータルポイントも、目まぐるしく変わっていく。
いったん優勝ポジションから滑り落ちた川上だったが、東3局0本場にすぐ反撃に転じ、みあの先制リーチに追いかけリーチをぶつけ、8000プラスリーチ棒もゲット。再び優勝ポジションを奪還した。
圧巻だったのは、東4局の3000・6000で、これは鴨舞にとって親被りになったことが特に痛かった。
さらに南1局0本場、鴨舞はわずか4巡目に8000をテンパイしたものの、その後ツモ切りを繰り返しているうちに、みあからリーチが入り、
あえなく当たり牌をつかんでしまう。
果たして、みあの手が倒された。リーチ・ダブ南の5200放銃。♯2の3着目を競るライバルからの直撃を受け、鴨舞はついにラス目に沈んでしまった。
みあはさらに、続く親番で6000オールをツモアガリ。酒寄とともに2人で、♯2トップ・トータル優勝ポジションの川上を追う。
と、ここで冒頭のシーンだ。
そして、局面は、南4局へと移っていく。
視聴者に各者の優勝条件を伝えるための表示、まさかこれが7回も更新されることになろうとは…。南4局に入った時2本だった積み棒は、結局8本になった。
現状優勝ポジションの川上は、アガリトップだ。誰から何点でアガってもいいし、なんなら流局時ノーテンで伏せてもいい。
鴨舞は親番なので、こちらもまた川上同様、誰から何点でアガっても連荘できる。ただし、流局時は必ずテンパイしていなければ、次局がない。
大きく動いたのは、南4局3本場。鴨舞は自風のポンから発進すると、
待望のドラを重ねてテンパイ。
最後は、勝負を決めにきた川上からが放たれ、12000は12900の直撃に成功した。よし、まだやれる。トップを追える。優勝を目指せる。
とにかく連荘したい鴨舞は、南4局6本場にもリーチ。見ての通り、ドラもなければ赤もない。しかしこのリーチこそが、鴨舞を3代目シンデレラへと導くのだった。
そして、このリーチに立ちはだかったのは、優勝ポジションの川上ではなく、3000・6000ツモor5800以上直撃条件のみあだった。白・メンホン・イーペーコー・赤の12000に仕上げ、優勝をねらう。テンパイ打牌は、鴨舞の入り目であるで、待ち牌は1種類多い、の変則三面張だ。
もしも鴨舞がをつかめば、あるいはみあがツモれば、3代目シンデレラはみあだったが、ここで鴨舞がをツモって勝負あり。みあはこのをどんな気持ちで見ていたのだろう。
酒寄にダブル役満条件を、みあに役満条件を、川上に倍ツモ条件を、それぞれ押しつけ、8本場は川上レイの一人聴牌、鴨舞はノーテンを宣言、流局となり終戦となった。つまり、♯2のトップは川上レイだ。
3代目シンデレラは、
■ノーシードで1次予選から勝ち上がった
■二児のママである
■負けず嫌いの
鴨舞に決定した。
いや、こっちの方が雰囲気が出るかもしれない。
3代目シンデレラの鴨舞だ。
いやいやいや。せっかくなんだから、ガラスの靴と一緒にネギも持ってほしいなあ。
よし、これでいい。
鴨舞、おめでとう!
シーズン4にエントリーするかどうか迷っているママシンデレラたち、ノーシードシンデレラたちに、大きな勇気をありがとう!優勝記念・鴨ネギ杯の開催、心待ちにしています。
Day8 Final 結果レポート
決勝戦 各選手視点観戦記
▼3代目シンデレラになるために〜鴨舞が箱下から積み上げた29200点〜 【8/23シンデレラファイト シーズン3 Final 鴨舞視点 担当記者・中島由矩】
▼川上レイから笑顔を奪った日 【8/23シンデレラファイト シーズン3 Final 川上レイ視点 担当記者・坪川義昭】
▼「悔し涙ではなく嬉し涙を流したい」みあが最後に流した涙は…【8/23シンデレラファイト シーズン3 Final みあ視点 担当記者・神尾美智子】
▼ラスるために勝ち上がったんじゃない、けれど〜酒寄美咲は人を愛し麻雀を愛す〜【8/23シンデレラファイト シーズン3 Final 酒寄美咲視点 担当記者・中島由矩】
公式HP