役牌トイツがある手は多くの場合役牌をポンして手を進めた方がよいことは「現麻本」でも取り上げました。役牌が雀頭ならタンヤオやピンフ、役牌コーツの1翻がつかないので、タンピンが狙える手ほどメンゼンで進めても打点が上がりにくいためです。ホンイツやトイトイ、あるいは複数のドラで鳴いてもまずまずの打点が見込める場合はなおのこと鳴いて進めた方がよくなります。
アガリに遠い場合は守備を考慮して鳴かないことも考えられますが、それにしても鳴いた方がアガリやすいことは確かですし、押し引き判断やベタ降りの手順、安全牌の抱え方が正確であれば、少なくとも鳴いて大きく損をすることはそうないはずです。(1枚目の役牌は基本スルーという打ち方が強者間でもよく見られたこともありましたが、これは押し引き判断やベタ降りの手順についての技術が発達していなかった時代背景もあるかもしれません。)
逆に言えば、役牌が出ても鳴かずにメンゼンで進めるのが有力になるケースは、鳴くと2翻以下の手で、鳴くと無くなる、あるいは食い下がりになる手役があり、メンゼンでも十分に先制テンパイが狙えるような手です。
上図はメンゼンならイーペーコーまたはチートイツ2シャンテン。鳴けば2シャンテンのままとはいえ手が進む牌は大幅に増えますが、打点もかなり下がってしまいます。序盤の同じシャンテン数同士の手で、一方のアガリ率が2倍以上になるということも考えにくいのでスルーがよいと判断しました。
メンゼンで進めた場合に、シャンテン数は進まなくても受け入れが増えたり、打点が上がるような変化もそれなりにあるというのも一つのポイントです。細かい変化を計算するのは困難なので、戦術本で鳴きの基準を取り上げる場合は変化をあまり考慮する必要の無い牌姿が用いられます。そのため、昨今の戦術書から麻雀を学ばれた方は、メンゼンで進めるメリットを軽視しがちな方が少なくないかもしれません。
これはリーチや押し引き判断にも通じるところがあります。原則は即リーチ、テンパイなら押しとはいえ、判断を覆し得る要素自体は数多くあるということは、「もっと勝つための現代麻雀技術論」でも度々取り上げてきました。多くのケースで有力なセオリーだからこそ、実戦ではセオリーが覆る可能性を集中して考慮すべきです。
メンツ手、チートイツともに1シャンテン、リーチツモで満貫手になり更に受けが広くなる変化もあります。こうなれば2枚目であってもスルーします。
アガリさえすれば失点することはありませんが、他家より先にアガれるようであれば可能な限り打点を上げた方がよいというのも事実です。鳴いた後の展開とスルーした後の展開。実戦ではどちらか一つしか見ることができないので優劣をつけるのが難しいですが、メンゼンで進めた場合の打点的メリットが大きい場合は、一見鳴きそうな手でもスルーする手はないか、逆に打点的メリットが小さい場合は、一見メンゼンで進めるよりなさそうだけど鳴く牌はないかについて意識されてはいかがでしょうか。