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「7ソーは手出しです」から始まるシンデレラストーリー Mリーグドラフト会議2019 赤坂ドリブンズ丸山指名の裏側

「7ソーは手出しです」から始まるシンデレラストーリー Mリーグドラフト会議2019 赤坂ドリブンズ丸山指名の裏側

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ドラフト会議当日、衝撃の朝

2019年7月9日9時46分
ドラフト会議当日の朝、ドリブンズのLINEグループに衝撃的なメッセージが監督から伝えられる。

【選手の皆様へ 重要】と題付けられたメッセージは、次の1文から始まった。

「・・・となった場合、丸山を指名しようと思います」

事前に候補者をある程度絞り込んで分析してあるとはいえ、昨年度優勝チームのドリブンズはウェーバー制により指名順が最後となるため、様々なケースを想定しておかねばならないのはわかる。

とはいえ、越山が提示したのはかなり起こりそうなケース。つまり、実質的にプロ歴わずか2年目の丸山を指名すると言うのだから、チーム中が驚きを隠せなかった。

すると、越山がその思考を語り始める。

その年度の勝ちを最大限に取りにいくというこれまでの短期的なスタンスだけではなく、「中長期的な」「チームとしての」完全勝利を取りにいく非常に欲張りで非常に難易度の高い提案に映った。

これに対し、越山は選手に意見を求める。

7ソーは手出しです

ドラフト会議2019から遡ること1年半。

2018年2月某日
私は、最高位戦プロテストの試験官を終えた園田と話していた。

園田「つーかさ、こないだのプロテストですごい子がいたのよ」

私「へえ、どんな?」


私「それすごいね。人間の脳のリソースが限られてるって意味では、全部覚えてるより(ターツ落としの形が決まる)大事なだけを覚える記憶方法の方が効率的かつ効果的とすら言えるかもしれないしね。そういう意味で完璧かもしれないよね」

園田「そうなのよ!そりゃ全部覚えてるにこしたことはないけど、もしリソースが限られてるんなら、むしろそれが完璧な覚え方である可能性もあるんだよね」

麻雀盤面の記憶方法は選手によって様々だ。
例えば、同じドリブンズでも村上はすべてをくまなく記憶する。

一方で、たろうや園田は「大事なところだけは絶対に漏らさない」という濃淡をつけた記憶をするタイプだ。
そういったタイプが同じこともあいまってか、園田はこの受験生を高く評価した。

その受験生こそが丸山奏子だったのである。

そんなターツ落としにかかわる重要な手出しツモ切りなど、トップ選手なら覚えていて当たり前だ。
しかし、初めての緊迫した対局、いつもと違う所作、見られている緊張感などから、プロテストでいきなり実力を発揮することは非常に難しい。

それを丸山は全て的確に答えていったのだから驚嘆する。実はこの以外にも、何度質問しても的確に回答していったと園田はうれしそうに語っていたのを覚えている。
もちろんこのとき、丸山はおろか園田でさえ自身がMリーガーになるなんて、そもそもMリーグなどというプロリーグができることなんて、思いもしていない。

ドラフト会議1時間前の決断

2019年7月9日18時3分、ドラフト会議1時間前
「丸山でいく」
越山はついに決断する。
そして、越山は次のようにチームに語りかけた。

※文中の「水島」は、水島正幸 博報堂DYホールディングス代表取締役社長。社長が以前に出されていたコメントとして。

これは、傲慢なのかもしれない。
欲張りなのかもしれない。
実績ある候補者が多くいるだけに、実績の乏しい丸山指名案に対して、選手たちからは疑問の声も挙がった。
しかし、これは多数決ではない。
意見は言う。でも、監督を信頼しているからこそ、「最後は監督が決める」。

これだけが、今までもこれからも、ドリブンズ唯一の民主主義だと全員が理解している。
だからこそ、監督が決断した選択に、異論などあろうはずもない。
選手、スタッフ全員が瞬時に腹を括った。

今この瞬間は、確かにもっとリスクの少ない、期待値の高い選択があるかもしれない。

しかし、ドリブンズの3人が麻雀を本気で教え、監督スタッフ一同で本気で麻雀に取り組める環境を丸山に提供できたとき、1年後には期待値が逆転していることだってあるのではないか。
丸山にはその素地がある。
ドリブンズは、そう信じて疑わなかった。

シンデレラストーリーは突然に

2019年7月9日19時40分
ドリブンズの指名順が回ってくる。
このとき、奇しくも越山が想定していた状況が訪れていた。
「・・・の場合には丸山」の、その場合が正に今、目の前にある。
そして・・・
視聴者が「シンデレラストーリー」と言った、ドリブンズの決断が画面に映し出された。

たろうと一緒に放送を観ていた私は、思わずたろうと目を合わせる。
(来たね。もう後戻りはできない。新生チームで、今年もやってやろうじゃないか!)
そんな覚悟が、お互いの目に映っているのを感じた。

シンデレラは灰にまみれても折れずに進む

2019年7月10日22時3分
ドラフト会議翌日、丸山はドリブンズ一同と顔を合わせていた。
全員、歓迎する気持ちに偽りはない。

ただ、お祭り気分で来てもらっては困る。急速に成長してもらわなければ困るのだ。そこでドリブンズから丸山に課された「麻雀が強くなるための方法論」は非常に厳しいものだった。

そして、ドリブンズは選手もスタッフも、それを絶対に遂行させていく厳しさを持っている。
丸山はこの1年、絶望や悔しさで涙を流し続けることになるかもしれない。

園田「たぶん、80回ぐらいは泣くことになると思うよ」

丸山に向けてこう言ったのは園田の優しさだと思ったし、その予測はもはや事実と言って差し支えないだろう。
これに対し、丸山は毅然として答えた。

丸山「もし私が泣いてしまったとしても、絶対に指導をやめないでください。どんなに泣いていても、絶対に言い続けてほしいです。本当になんでもやります!」

Cinderella(シンデレラ)
「灰かぶりのエラ」は、屋敷の雑用を黙々とこなし、時には灰で真っ黒になりながら耐え忍んだ結果、魔法がかかってハッピーエンドとなる。

「なんでもやります!」
ドリブンズらしく、シンデレラらしい言葉だなと思った。
できることは全部やる。それが、ブレることないドリブンズの基本姿勢だ。
それならば、まずは大いに灰にまみれてもらおう。

シンデレラストーリーは、まだ始まったばかりだ。
一夜にして舞台に上がったドリブンズのシンデレラは、灰にまみれても折れずに進むと誓った。
丸山奏子

おわりに 監督コメント

ところで、指名選手が1時間前に決まっていたのなら、指名時にどうしてあんなに時間がかかったのかと思われた方もいるのではないか。
何しろ私もその1人。翌日、思わず越山に尋ねた。

― 監督、あれは迷ったフリなの?
越山「いや、そういうんじゃないよ。指名は決まってるしね。すぐ入力したのよ。でも、入力手順が完了してなかったみたいでさ」
※画像は、入力手順が完了していないことに気づいた瞬間の越山。

まずは一度、灰にまみれるところから始めていただきたいものである。
そんなおっちょこちょいな監督が、今回の記事に下記コメントを寄せたのでぜひ読んでいただきたい。

ー 2019年シーズンドラフトを終えて、まずは率直な感想を
越山「これはチームというよりは個人的な感想になるのですが、苦しかったです。ドラフトって本当に難しい。プロ野球のドラフトを毎年見ているし、仕事でも関わったことがあるのですが、指名する側になるとこんなにもプレッシャーが生じるのかと。自分たちのチームの未来のことだけを考えて誰かを選ぶ行為のはずなのに、どうしても選ばれない人達のことを思い浮かべてしまう。ドラフトの話題が大きくなるにつれ得体のしれないプレッシャーが増していく。結論を出すのが本当に怖かったです。昨年以上にそれを感じました。」

ー 丸山奏子プロの指名はチーム内に驚きがあった。いつ、どうやって決断したのか?
越山最後の最後まで悩みました。今年指名可能な選手の中で、もっとも勝利に近い、所謂即戦力となる選手を選ぶべきか。それとも、数年後を見据えて、今までにない挑戦をすべきか。前にもインタビューで答えましたけど、レギュレーションに左右されるところが大きい。例えば最低試合数ですね。これが正式に決まっていないので将来への投資に対して計れないリスクがある。今年から8チームになったことで、もしかしたら来年から今やっている駅伝のように同時に2卓開催されて試合数が大幅に増えるかもしれない。チームの方針として新しい挑戦をしたいという思いはありつつも、判断する情報が少なくて踏み切れない。指名選手、正確にいうと指名選手の順番を決めたのはドラフトの1時間前でした。」

ー 今までにない挑戦とは?
越山「麻雀プロの皆さんは研究会や勉強会を皆で行い、切磋琢磨して技術や実力を高める文化があると思っています。それはきっとギブアンドテイクの精神で、自分の成長のために行われていたと思うんですね。一方で、自分の成長というよりは利益それは即ちチームの勝利を指すんですけれども、そのために他者に対して献身的に技術や経験を提供することはあまりなかったと思うんです。もちろん、今回でいえば丸山プロがドリブンズの3人に対して全く何かを与えないとは思わないけれども、でも、基本的には3人が彼女の成長を促すというベクトルだと思う。その中で、この3人が育てる選手というのを見てみたい。野球にせよサッカーにせよ有能な指導者の元で若い才能は開花していくわけで、その仕組みを麻雀界においても実現したい。そして、確固たる戦力として、チームに勝利をもたらす選手にしたい。勝利と育成を両立させるという、新しい挑戦だと思っています。」

ー 勝利と育成の両立?
越山「そうです。ややもするとドリブンズは今季は諦めてるのかなんて見方をされますが、まさかそんなことがあろうはずもない。ポイント期待値が高い人がより多く出場することがMリーグの最適戦術の一つであることは間違いなく、それは園田、村上、たろうが担えばいいし、できると信じている。さらには今回のドラフトにおいて、この3人に準ずる選手を選び、チームの中で傾斜配分をつけてレギュレーションに合わせて出場させればいいという考え方もあるが、一方で、ただ現時点で強い選手を多く集めて確率を高めるだけがプロチームの正しい在り方なのだろうかというジレンマがあった。何度も野球に例えて申し訳ないけれども、若い選手が成長していく姿を見守るのはチームのファンの喜びの一つだと思う。練習では経験できない試合の中での失敗を重ねて成長していく。それを他の選手がカバーすることで、育成しつつ勝利する。麻雀でもできるのではないか?ドリブンズならできるのではないか?と思っています。」

ー それが丸山選手だった、と。なぜ彼女だったのか?
越山「そうですね。キャリアの浅い選手の方が良いと思いました。今回候補として考えていた他の選手の皆さんももちろん若く成長の過程にあるのだと思う、なんなら今のドリブンズの選手たちも日々成長を目指して研鑽しているのですが、一方で女流選手としてキャリアも実績もある。それならば真っ新に近く、一番伸び代が多い、吸収力が強い選手は誰か?ということで選ばせてもらいました。
もちろん、キャリアの浅い若い選手は数多くいるのですが、丸山選手はアマチュア時代の実績もあるし、なによりも貪欲。麻雀が本当に好きなのが伝わってくる。彼女の最高位戦プロテストの際の試験官を園田が担当していたのですが、目を見張るセンスもあると。」

ー 選手に相談は?
越山「たくさんしました。ずっとしていました。本来チームにおける選手の補強はフロントの責任です。ただ、プレイヤーの素質や能力を見極める力に関しては私たちよりも3人の方が高い。だから彼らから色々と意見を聞きました。それは丸山選手のことでだけはなく他の選手たちのことも含めて総合的に。ですけれども。最終的な決断はチームフロントで行い、ドラフトの朝に選手たちには伝えました。その決断に対しては正直にいうと選手たちからも疑問の声は上がったんですけれども、丁寧に説明しました。そして、最後はチームの方針として意思統一ができました。」

ー どういった育成プランを?
越山「これも3人と相談して決めていくことですが、プランはあります。そして、そのメソッドをきちんと体系化し、麻雀ファンの方にも提供していくのがチームとしての務めだと思っています。自分たちが勝利を目指すのはもちろんのこと、それだけでなく、麻雀界全体の技術の進歩に貢献したいと思っています。」

ー 丸山選手に期待することは?
越山「今まで話したことを単一面だけで捉えると、実験台のように聞こえてしまったかもしれませんが、そんなこと決してありません。3人の教えに、彼女が持つ個性、ポテンシャルといった才能がかけ合わさり、女流という枠にとらわれず新しいタイプの強い選手になって欲しいし、なれると思っています。そしてその過程をサポーターの方、ファンの方にも見てもらえたら、と思っています。キャリアの浅い彼女をMリーグというステージやドリブンズという個性の強いチームに迎え入れることの是非をずっと考えていましたが、ドリブンズにとっても彼女にとっても互いにプラスになると信じています。ぜひ安心して大きなお腹に飛び込んできてほしい、そう思っています。」

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この記事のライター

赤坂ドリブンズ 広報
Mリーグ 赤坂ドリブンズの広報担当です。
園田賢、村上淳、鈴木たろうの3選手が、赤牌入り競技麻雀という未開の地を切り開き勝利に向けてドライブします。
選手の思考や舞台裏の様子を伝えていきます!

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