常人では選択肢にも入らないような数々の打牌選択を続け、そして結果を出し続けた。
やがて、彼のことを人はこう呼んだ。
「ゼウスの選択」
麻雀プロで唯一神の二つ名を与えられた男。
今回は鈴木たろうプロの軌跡を紹介したいと思います。
◆鈴木たろう(すずきたろう)
◆生年月日:1973年10月4日(45歳)
◆出身地:茨城県水海道市
◆血液型:B型
◆所属チーム:赤坂ドリブンズ
◆所属プロ団体:
日本プロ麻雀協会(~2020年11月14日)
最高位戦日本プロ麻雀協会(2020年11月14日~)
◆趣味:将棋
◆主な獲得タイトル:最強位(第15期)、雀王(第9・11・12・13期)、愛翔位(第4期)、優駿位(第2期)、野口恭一郎賞(第8回)、BIG1CUP(第10回)、無双位(第14期)、オータムチャンピオンシップ(第10回)
◆Twitter:@SuzukiTaro_npm
家族麻雀からはじまり、麻雀漬けの日々へ
たろうが麻雀と出会ったのは小学生の頃。週末父親の麻雀を後ろで眺め、たまに牌に触らせてもらい、上手くいくと褒められるのが嬉しい無邪気な少年でした。
しかし、中学生になる頃には友達と卓を囲む機会も増えていきます。
高校生の頃にハンドボール部を引退してからは、勉強をするふりをしてどっぷりと麻雀漬けの生活に。当然のように進学に失敗し、浪人生活へと足を踏み入れました。
この様な形で進んだ浪人生活で受験勉強が捗るわけもありません。1年間で予備校の滞在時間はわずか4時間ほど、日々麻雀に明け暮れる生活になります。
それでもなんとか高千穂大学へ進学を決めますが、麻雀店でのアルバイトと部活が中心の生活となってしまいます。ただ、この麻雀店での人脈が、たろうのこの後の進路に大きな影響を与えます。
活躍の場を求めて棋士会から協会へ
1997年、女流選手のための団体として、日本麻雀愛好クラブという団体が創設されます。この時たろうは創設者の高橋純子氏の誘いで女流選手の麻雀講師役として麻雀業界へと足を踏み入れることになります。
この団体は徐々に男性選手も加入し、2000年から日本プロ麻雀棋士会と名称変更し、愛翔位戦というリーグ戦もスタートします。たろうは出場できる大会は全て参加し、年間3つのタイトル戦の決勝進出など、安定して好成績を収め、徐々に名を売って行きます。
最高位戦と棋士会の若手中心の研究会でも中心選手として意見を述べ、紙上では『オカルトバスターズ』としてベテラン選手と議論を交わすなどの活躍を始めます。
そして、第15期最強戦(※1)では、オーラス逆転の四暗刻をアガり、ついにビッグタイトルを獲得します。
しかしたろうは満足していませんでした。
同年代では抜けた活躍をしながらも表舞台には立てずにいたのです。
その頃からたろうは力のある団体への移籍を考え始めます。当初、最高位戦日本プロ麻雀協会への移籍を試みますが上位リーグからの編入は叶わず。このタイミングで、日本プロ麻雀協会からB2リーグへの編入を提案されました。(※2)
こうして2005年に日本プロ麻雀協会の第5期に入会することになったたろう。ここまで日の当たる機会が少なかったそのうっ憤を晴らすように快進撃が始まります。
前人未踏の雀王3連覇 常識にとらわれない発想で協会の麻雀を変えた
2005年にB2リーグ、2006年にはB1リーグをそれぞれ1年であっさり昇級し、ストレートでAリーグ入り。そのままの勢いで2007年には第7期雀王決定戦に進出します。
この年は同じくAリーグ一年目で若手の小倉孝(※3)に敗れますが、2009年に第9期雀王の座に輝きました。移籍を決めたたろう、そして途中編入を決めた協会の判断は正しかったと証明しました。
そして11、12、13期と史上初の雀王3連覇を達成。常識にとらわれないたろうの打ち筋はいつしか「ゼウスの選択」と呼ばれるようになりました。
当時の協会では、須田良規(第5期雀王)や小倉(第7期雀王)の影響でスピード重視の雀風が流行っていました。鈴木達也(第2・6・8・10期雀王)だけは例外でしたが・・・。
しかし、協会のリーグ戦で圧倒的な成績を残した(※4)たろうの影響で、打点を重視するプロが増えたといいます。
常に常識を疑い続けて、勝ち方を模索しているたろうは、一発裏ドラ無しのオータムチャンピオンシップで優勝、リーチやフリテンが無いWSOM(ワールドシリーズオブマージャン)で準優勝と、どんなルールでも対応できる強さを証明しました。
その自由な発想は赤ありルールで行われたMリーグでも、何度も目にしたことでしょう。
▼221人が参加したWSOMで日本人最高となる準優勝に輝き、29万3263香港ドル(約466万円)を獲得した
プロ否定から一転、ファンから応援されるプロへ
現役トップクラスのタイトルを獲得したたろうですが、もともとはプロ否定派。麻雀というゲームの性質上、プロとして成立するはずがないと考えていました。また、当時身の回りにいたプロの思考や発言からもその思いを強くしていました。
学生時代に働いていた麻雀店では故安藤満(連盟)や新津潔(最高位戦)が専属プロとして働いていました。安藤は流れを変える亜空間殺法が有名で、これを真似しようとする愛好家も多くいましたが、(実は筆者もその一人でした)『何言ってんだこのおっさんと思っていたし、当時は強いとも思っていなかった』とたろうは言います。
その後数々の経験を積み重ね、麻雀の対人ゲームとしての要素や経験からくる選択の重要度、そして安藤プロをはじめとするベテランの強さにも後から気づくことになります。
河野高志(RMU)からは、「多井(隆晴)や俺が安藤さんの弟子だと思っていたけど、たろうが一番安藤さんの麻雀に近いよね?一番弟子はたろうかもな」と声を掛けられるほど知らぬ間に影響を受けた存在だったのかも知れません。
著書『デジタル麻雀の達人』の中で、
「プロ否定」などとうそぶいていた僕だが、今後も後ろで観てくれるファンの人たちの胸を打つことのできる打ち手でいたいと思っている。
と発言し、活躍すればするほど増えていくファンの存在にも影響をうけました。
RTDリーグに出場していた頃に定期的に開催していたオフ会では、全国から来場したファンと食事をしながらトーク中心で交流を深めています。
麻雀を全く打たないファンイベントはこれまでの麻雀界ではあまり見られなかった光景ですが、これもたろうの自由な発想から生まれているのではないでしょうか。
運命のくじ引きでドリブンズへ
2018年8月7日に行われたMリーグのドラフト会議。たろうはドラフト指名候補の大本命として会場に向かいます。
ところが、2巡目を終えて指名はなし。さすがにたろうの顔にも不安がよぎります。
ですが、3巡目にたろうが残っていたというのはチーム側からしても嬉しい誤算でした。赤坂ドリブンズ・渋谷ABEMAS・U-NEXT Piratesから重複指名を受け、この日唯一のくじ引きを制した赤坂ドリブンズへと入団します。
オカルトバスターズの盟友・村上淳(最高位戦)、無名ながらもたろうが認めそして大きく輝いた園田賢(最高位戦)で結成された赤坂ドリブンズは見事初代王者となり、たろうも優勝に大きく貢献することとなりました。
変化を恐れない・常識にとらわれないたろうのこれからの選択から目が離せませんね。
※1 麻雀最強戦HPでは当時の近代麻雀の記事を閲覧できる
※2 最高位戦はたろうを逃した反省を生かし、編入システムを確立。土田浩翔や朝倉康心、山田独歩など有力選手の編入に成功した
※3 『小倉システム』で新人から圧倒的な成績を残し、新時代を作った麻雀プロ。現在はポーカーでも日本人トッププレイヤーとして活躍中
※4 大浜岳のブログ「【麻雀】鈴木たろうの成績をまとめてみた」によると5期から16期まで一度も最終成績でマイナスしていない。17期(2018年)で初めて最終成績がマイナスになった。その他の記録を見ても圧巻の一言
年 | 年齢 | 主な出来事 |
---|---|---|
1973 | 0歳 | 茨城県水海道市生まれ |
1997 | 24歳 | 日本麻雀愛好クラブ(後の日本プロ麻雀棋士会)に入会 |
2000 | 27歳 | 小林剛・村上淳と「オカルトバスターズ」を結成 |
2003 | 30歳 | 第4期愛翔位を獲得 |
決勝戦オーラスで四暗刻をツモり、第15期麻雀最強戦優勝 | ||
2005 | 32歳 | 日本プロ麻雀協会に移籍。雀王戦B2リーグを首位でB1リーグに昇級 |
2007 | 34歳 | 第10回BIG1カップ優勝 |
雀王戦Aリーグに昇級 | ||
2009 | 36歳 | 第8回野口恭一郎賞受賞 |
2010 | 37歳 | 第9期雀王を獲得 |
2013 | 40歳 | 第11期雀王を獲得(通算2期) |
2014 | 41歳 | 第12期雀王を獲得(通算3期) |
2015 | 42歳 | 第13期雀王を獲得し。前人未踏の三連覇を達成。鈴木達也と並ぶ協会最多の四度目の雀王となった |
2018 |
44歳 |
Mリーグが発足し、赤坂ドリブンズに3位指名される |
2019 | 45歳 | Mリーグ初代チャンピオンに輝く |
ゼウスの思考に迫る動画「麻雀の匠」Youtubeで公開中!
著書
『ゼウスの選択 デジタル麻雀最終形』(2015年 マイナビ)
「ゼウスの選択」は元々SEGAのアーケード麻雀ゲーム「MJ」における、たろうプロのキャッチコピーです。対戦相手の状況や思惑までも加味して打牌を選択する「神の視点」を持つことから名付けられました。常人の理解を超えたその打ち筋で日本プロ麻雀協会の最高峰タイトル「雀王」を3連覇し、「ゼウス」の名にふさわしい存在になっています。 本書はこれまで決して明かされることがなかったたろうプロの麻雀戦術を余すところなく記した内容となります。
『最強プロ鈴木たろうの 迷わず強くなる麻雀』(2017年 講談社)
20代の新人ОLの佐藤はなさんは、勤務先の部長などに頻繁に麻雀に誘われていますが負け続け。はなさんは一念発起、最強の鈴木たろうプロに師事を仰ぎます。本書では、たろうプロとはなさんの会話形式で構成し、3つの章にわけて、48のレッスンを展開することにより、読む人のレベルに合わせた上達が見込めます。当たり前のことから、目ウロコの新事実まで網羅し、読者を飽きさせません。麻雀というゲームにおいて百戦錬磨、酸いも甘いも知っているたろうプロだからこそわかる戦術、麻雀に対する審美眼、コンセプトなどなどは必読です。大人気の鈴木たろうプロの麻雀、勝負に対する思考、スタンス、駆け引きに関してここまで公開したのは本書が初となります。
『デジタル麻雀の達人』(2008年 毎日コミュニケーションズ)
鈴木たろう・小林剛・村上淳の共著。麻雀は最高のテーブルゲームです。たった136枚の牌を使ってプレーするのに、局面のパターンがほぼ無限にあり、ただ何を切るかを考えるだけでも十分楽しめます。初心者が上級者に勝つことも魅力の一つですが、決して運だけのゲームではありません。本書は麻雀とは何かという本質的なことを見直し、勝つためにはどういう考え方が必要なのかを教えてくれる本です。