2018年内のMリーグの試合も終了した12月末、前半戦を首位で折り返した赤坂ドリブンズの監督、越山剛氏に話を聞いた。
最適戦術を1から作っていけるチームを目指した
ドリブンズといえば、何をおいてもまずはドラフト会議について話を聞かなければならないだろう。
獲得タイトルなし、当時無名だった園田賢を1巡目というサプライズ指名に出たドリブンズ。どのような方針で選手を選んだのだろうか。
越山「まず、プロスポーツチームである以上、選手を選ぶ基準は当然『勝てる』かどうか。『勝てるチーム』より優先する方針はないと思っています。その上で、『勝てる』の指標を何にどれだけ割り振るかが各チームで違ったために、こんなに指名がバラけたのだと思っています」
確かに、1巡目、2巡目と全く指名が重複しないという出来事について、ドラフト会議前に予想した者は決して多くなかっただろう。それほどに、『勝てる』の指標選択が難しかったということかもしれない。
越山「『勝てる』の解釈は本当に難しかったですね。Mリーグは、それまでなかった『赤アリ麻雀』での『5団体のトッププロ同士』の戦いになるわけで、そんなステージで戦った経験は当然ながら誰にもないわけです。なので、勝つためにはこの設定における最適戦術を1から作っていく作業が必要になると思いました」
方針はわかったが、タイトル獲得実績のない園田を選出するのは大きな決断だったように見えた。その辺りはどう考えていたのだろうか。
越山「誰にも経験がないということは、逆に言うと、これまでの実績が選ぶ理由の全てではない、ということ。それよりは、新しいルール、フィールドの最適解を見つけ出し躊躇せず実行できるマインドや技術を持っている選手が欲しかった。それが園田賢だったわけです」
では、越山は、園田がそのようなマインドを持っていることをどこで知ったのだろうか。
越山「自分自身も最高位戦所属のプロということもあり、チームの中でスカウト・編成の役割を担っていたんですよね。なので、まず僕自身がよく知っている選手というのが前提でしたね。もちろん他団体の選手も各種対局番組等で麻雀を見たことがありましたが、直接話をしたわけではないので、麻雀観や性格まではわからない選手が多かったです。その点、普段から園田とはよく練習もしてめちゃめちゃ強いことも実感していましたし、飲みにもいって麻雀の話もよくしていたので、絶対に外せないと思っていました」
では、他にはどのような選手が候補として挙がっていたのだろうか。
越山「近藤さん、石橋さん、醍醐さん、新井さん、女流だと日向さんなどなど、挙げたらキリがないぐらい候補はいましたよ。
あとは、ASAPIN(朝倉康心)さんですね。ネット麻雀で頂点まで最初に登り詰めるって、誰よりも先に最適解を見つけて実行したってことだと思うので、さっきの選出方針にはピタリですよね。赤アリの天鳳が主戦場いうのも魅力でした。あとは、『ネット麻雀最強』っていうのもマーケティング的にいいなと思っていました(笑) ドラフト前にも食事にも行き、競合すると思うけど指名します、って話もしていたんですよ」
結果、ドリブンズは2巡目に村上淳を単独で指名することに成功する。
越山「村上さんは、物凄くまじめで探求心があると思うんですよね。とにかく努力の人。Mリーグが始まったらきっと誰よりも動画を見て、誰よりも研究すると思いました。色んなルールのタイトルを獲っていることからも、アジャスト能力も高いと思っていました」
園田・村上を単独指名できたところまでは越山の計画通りだったのかもしれないが、2巡目、U-NEXTパイレーツに朝倉を指名されてしまう。
越山「そりゃそうですよね、指名されないはずがない。パイレーツが3巡目指名だったら競合クジ引きに持ち込めたんですけどね(苦笑)。ところが、まさかの鈴木たろうが3巡目まで残っていたんですよ。彼は当然1巡目で消えてしまうと思って諦めていたので、そもそもこの状況は想定していませんでした。3巡目指名で2〜3チームぐらいは競合すると思っていましたが、ここはそのリスクを負ってでも勝負するところだと思いましたね。2巡目指名が出揃った瞬間に、チームのフロント陣と相談して、急遽指名をたろうさんに替えました」
そして、3チーム競合の中、越山は見事に鈴木たろうを引き当てた。
越山「たろうさんの麻雀はもちろんよく見ていたし、憧れてました(笑)。以前に何回か食事をしたこともあって、いろいろ話もしていて。その時の印象に残っている彼の話に、『(麻雀に限らず)とにかくゲームが得意なんです』っていうのがあって。ああ、なるほどな、と。想像力も創造力も高いんでしょうね。先ほど言った通り、Mリーグの序盤は最適解を見つける争い、という認識だったので、彼を指名しない理由がなかったですね」
今の数字については何の感想もない。これから先もたぶん考えられない
かなり構想に近いメンバーとなったドリブンズ。そのメンバーで実際に56ゲームを戦い、現在300ポイントを超えて首位に立っている。
この結果についてはどのように捉えているのだろうか。
越山「まあ、まだ途中経過ですから、嬉しいとかいう感情は全くないですよ。安心もしてない。今の数字が妥当なのかどうかもわからない。この数字が上振れしたものなのか下振れしたものなのか、そういうこともまだちょっと考えられないですね」
それは、麻雀のゲーム性に起因するのだろうか。
監督「良い選択が良い結果に結び付くとは限らないっていう麻雀のゲーム性に加えて、この新しいフィールド設定において選手たちのこれまでの実績という指標をどこまで信じていいのかわからないから、3人が築いたこの300ptという数字をどう評価したらいいかわからないし、そもそも評価してもしょうがない。だから数字に対しては何にも感情が湧かないですね」
実にあっさりとしたチーム評である。では、選手個人についてはどうなのだろうか。
越山「賢ちゃん(=園田)は内容的にも数字的にも素晴らしいと思っています。彼、最近、サインを求められたときに『やれることは全部やる』って書いてるんですよね。かっこいいな、と(笑)。でも、実際にそれができる人はやっぱりそんなにいないと思いますね。門前良し、仕掛けて良し、読みも抜群。差し込みやブラフもできる。すごい選手だなと思います」
では、たろうについてはどうだろうか。
越山「たろうさんは、前半きつかったんですよね。あまりにきつくて、『ちょっと放牧(=しばらく試合に出ない)させてもらってもいいですか?』なんて言ってきて、ほんとに自由奔放だなと思いましたね。メジャーリーグでいうところのラテン系の選手と向き合う様な感じがしました(笑)。むしろラテン系の選手でも「Hey監督! 俺調子悪いからしばらく休むぜ」とは言わないんですけどね(笑)。ただ実際、その放牧明けにきっちり数字を作ってきて、さすがだなと思いました。麻雀もわがままでわんぱくなイメージですけど、点数を持ったときには安心できる。瞬間瞬間の期待値というよりは、常に半荘期待値を見てやってる感じで、そこはトップの価値が大きいプロ協会で長年やってきた経験が活きてると思います。逆に『ここはもうトップ諦めて8,000点アガっといてよ』っていうのもありますけどね(笑)」
越山「最後は村上さんですね。今は結果が出てなくて、相当悔しいはずなんですよ。試合を見ていても、ちょっと悪い偶然を引きすぎているかなとは思いますね、正直。村上さんが試合から戻ってきて、よく『賢だったら鳴きそうだなと思いながらスルーした』とか『2人だったらどうするんだろう?って考えた』とかって言うけど、本人自身に結果が出てない中、Mリーグという舞台の大きさやチーム戦ならではの仕組みがそんな発言を生み出しているのかもしれない。チームとしては、園田を3人揃えたいわけでもたろうを3人揃えたいわけでもなく、むしろ多様性があったほうがいいと思っているので、そんなことを思ったり考えたりする必要はないと本人にも伝えているんですけどね」
越山「ただ、そういう謙虚で思考を突き詰める姿勢は素晴らしくて、努力家の村上さんらしい。やっぱりMリーグって新たなステージだから、これまでの自分を大切にする一方で自分を変えることも必要だと思うんですよね、細かいところで。そういう意味で、今シーズンが終わったときに一番話を聞いてみたいのは村上さんですね。今までの自分に何を加え、逆に何を捨てたのか、本当に興味があります」
簡単ではあるが、以上が2018年のドリブンズ総評。ここからは、少し未来に向けた話を聞いてみたい。第2回では、ファンサービスやチームワークの考え方などを聞いてみた。
《明日の第2回に続く》