DAY1・2で、全44人のシンデレラのうち11人が登場し、4人がラウンド16進出を決め、その陰で7人が涙をのんだ。
今回のDAY4は、システムとしては、グループAのDAY2と同じ。出場する8人のシンデレラのうち、4人はラウンド16へ進出し、残りの4人とは会えなくなってしまう。最後に行われる♯3は、3着と4着が脱落となるため、♯1・♯2でのトップは今まで以上に高い価値をもち、それに合わせて手組みや押し引きの選択も変わってくるだろう。
アメリカの作家、ヘンリー・デイヴィット・ソローの名言にこういうのがある。
「すべての不幸は、未来への踏み台にすぎない。」
敗退し、脱落となったシンデレラたちは決して、黙ってやられ続けていたわけではない。ギリギリまで踏み込んで手を作り、あとたった1枚目当ての牌と巡り合えたらラウンド16に進出できるように、危険牌も勝負し、祈りと願いを捧げて懸命に山に手を伸ばした。
今回舞台から降りるすべてのシンデレラの不幸が、どうか輝かしい未来につながっていますように。
まずは♯1から見ていこう。
「カトリーナ」こと加藤利奈は、DAY3の♯1・♯3ともに2着で勝ち抜けてきた。結果だけを見れば抜群の安定感を示しているようにも思えるが、本人は「デッドオアアライブでガンガン行きます!」と意気込む。前回もそうだが、居住地である栃木と試合会場の東京を往復するのには苦労があるだろうけど、加藤はそういうところを一切見せない。
いくら「ガンガン行きます!」と言っても、それに見合う手が入らなければ思うように動けないのが麻雀だ。しかし、親番の加藤はソーズが多めの配牌をもらうと、オタ風のから仕掛けだし、イーシャンテンにこぎつける。
ところが、この加藤の鳴きで有効牌を引き入れた南家の成海が三面張テンパイを入れると、見事一発でツモり上げ3000/6000に仕上げる。鳴きが入ってツモ順が変わり、それによって各者に入ってくる牌が違ってくるのは麻雀ではよくあることだが、ここは加藤の動きで成海が利する展開となった。
このシンデレラファイトでは、敗退した選手が対局後放送席に移動し、反省会を行う仕組みになっている。加藤が解説の綱川隆晃からアドバイスを受けたのは、上の南2局0本場のシーンだった。加藤はをツモ切りとし、123や234の三色を見つつ将来で出アガリしやすいよう布石を打ったが、ここは打とし、とが暗刻になるテンパイも逃さないように打ちたかった。
ちなみにこの局は、他家にが固められていた上、8巡目に追いついた高島がノベタンのを一発ツモ。2000/4000として、ラス目の加藤との点差を広げ、打倒成海の1番手に名乗りを挙げた。
加藤の好配牌は、仮にテンパイが入っていたとしてもアガリにはほど遠い、絵に描いた餅だったのだ。ここで3000/6000をツモれていれば、トップ目の成海から6000点を引き出し、一気に2着目に浮上できたのだが。牌山は、そういうふうには積まれていなかった。
南4局を迎えて、4者の点棒状況は下の通り。
東家・高島芽衣28200
南家・加藤利奈8600
西家・成海有紗49600
北家・小西雅13600
ラス目の加藤だが、3着目まで5000点差で迎えている。これは、直撃なら2600、ツモは1000/2000、他家からなら5200以上必要で・・・とソロバンをはじいていたところ、
急所のカンを引いて、赤3枚になった。天は加藤を見捨ててはいなかったのか。
加藤はさらなる幸運を引き当てる。ライバル小西が、試合を決めに行くポンしテンパイを取ると、
そのとき河に放ったドラをトップ目成海がポン。以後、小西はテンパイを維持できなくなってしまった。小西は、相手が誰であれ8000を放銃することができないからだ。
成海のドラポンを見つめる小西の切ない表情がいい。 DAY3で高いダマに刺さった旭茅乃を思い出す。スポーツ同様、選手の必死なプレイは見る者を魅了するのだ。
加藤は仕掛けてカン逆転テンパイまでこぎつけるものの、最後の1牌には巡り合えず。
持っていたカピバラを同卓者に渡して会場を後にした。
このカピバラは、最後のインタビューで勝ち残り者とともに次々登場。これがまた、今風に言うとエモかった。甲子園で敗退チームから勝利チームに千羽鶴が渡るのに似てはいまいか。
♯2は、佐藤芽衣が登場。
佐藤芽衣はDAY2の♯2をトップで通過。オーラス親番での猛連荘は、今回の同卓者もきっと予習済みだろう。
その佐藤芽衣「ここぞ!」のシーンは、微差のラス目で迎えた東4局だった。14巡目ながら、ツモり四暗刻でリーチと攻める。
リーチ後にツモってきた4枚目のにもしっかり反応して暗カンできたものの、山に残っていた最後の1枚を引き当てることはできず。
逆に、3副露で攻め込んだ南1局2本場では、タンヤオの片アガリ牌であるが、リーチの「こなたそ」彩世来夏に3枚持たれていて、
の三面張に放銃。いわゆる「ダブドラ」の内蔵で、7700は8300という中打点も痛かった。
しかし、佐藤芽衣はあきらめない。「ラス抜けを」ではない、「トップでのラウンド16進出を」だ。南1局4本場では、ドラのタンキでリーチをかけ、3000/6000以上をツモりにいくものの、無念の流局。この局は、佐藤芽衣の先制リーチを受けた望月涼香の追いかけリーチも強気で見事だった。
これまた3000/6000以上のツモアガリを目指したもので、望月もまた♯2トップを取ってのラウンド16通過を見ていたのだ。
この観戦記は、敗者にスポットを当てている関係上、点棒を持っているシンデレラはあまり登場しないことになっているが、それでもこのアガリに触れないわけにはいかない。
南2局5本場、彩世の4000/8000は4500/8500だ。佐藤芽衣が親番で、8500を被ったのも痛かった。南・小三元・ホンイツ・ドラ1で、シャンポン待ちの片方であるは2枚河にあったのだが、彩世は山に残るを力強く引き寄せた。
♯1の加藤同様、トップ目に吹く突風に耐えられず、佐藤芽衣が会場を去る。四暗刻が成就していれば、彩世の倍満がツモアガリじゃなければ、あるいはあのとき親番じゃなければ、たくさんの「たられば」はあるものの、おそらく本人の口からは語られないだろう。
♯1から高島芽衣・小西雅、♯2から望月涼香・音無愛音が集った♯3では、これまでの2戦以上に高打点のアガリが飛び出した。
「ツモ。4000オール。」
東1局にいきなり抜け出したのは、♯1のネクタイ姿から衣装替えをした小西雅。胸に書いてあるのは、漫画・北斗の拳に出てくるキャラクターのセリフだと言う。
実はこの局、望月に3巡目3900テンパイが入っていたのだが、音無が危険を察知して望月への当たり牌を手に留めていたのだ。その間隙をぬって、小西が一発ツモを決めた。望月も音無も最善を尽くしたのだが、それが小西に利する形になってしまった。
望月のファインプレーが他家の運命を変えたケースは他にもあった。続く東1局1本場、高島芽衣が役牌のをスルーしてリーチ。リーチ・ツモ・赤・ドラの2000/4000は2100/4100をツモりに行く。
先に仕掛けていた望月は、上家から出たをスルーすると、ツモってきたのは高島のアガリ牌となる。つまり、望月が「チー。」と発声してテンパイを取っていれば、下家の高島がこのでツモアガリだったわけだ。
望月はさらにを引き入れて、高島のアガリ牌を押さえただけでなく、でテンパイを取り切った。
高島は、鋭く攻めたがための手痛い放銃もあった。音無の先制リーチを受けて、ピンフ・一気通貫・赤と、ピンフドラドラのイーシャンテンに絶好のを引き、ドラ切りで追いかけリーチを打とうとするも、
このは音無の高め。払った点棒よりも、12000を得られる機会損失が大きい。
高島はこの後も手役を追って上位2人(望月・小西)との差を詰めにかかるが、手なりではない分、時間がかかってしまい空振り。
音無も勝負所を見極められず、先制リーチを受け、二度のテンパイで腹をくくることができなかった。
南4局1本場を迎えて、4者の点棒状況は下の通り。
東家・小西雅41700
南家・音無愛音5300
西家・望月涼香42400
北家・高島芽衣10600
望月が「リーチ。」と言った。これには勝算がある。小西からの差し込みだ。
小西は望月に三倍満まで放銃ができる。役満じゃなければいい、と書いた方が分かりやすいかもしれない。だからこの望月のリーチに対し、小西は上の14枚から・・と抜いていく。こういうプレイも競技麻雀の見どころだ。もし決勝戦なら絶対こうはならないし、その前に望月がリーチしなかった可能性すらある。
ところが、望月の待ちはで、小西がどれだけ危険牌を河に流しても「ロン。」の声は聞こえない。高島・音無は、この間に手を組み、追いかけリーチを打つことでホットラインを崩せるか。
果たして、高島のリーチが間に合った。ツモれば4000オールからの打点もさることながら、親がリーチすることで、小西ー望月ラインに好き勝手させない効果がある。10600点持ちの3着目ながら、高島はこうして一矢報いたのだった。
しかし、最後は追いかけリーチの高島自身が望月のアガリ牌であるをつかんでしまい、あえなくゲームセット。
小西の険しい表情の理由は、最後の差し込みが上手くいかなかったことに由来すると思うのだがどうだろうか。
対照的に、望月は晴れ晴れとした顔でインタビューに答えた。
グループAの羽月・陽南まこ同様、シンデレラファイトシーズン1の功労者たちが、ラウンド16進出を決めた。♯1トップの成海有紗・♯2トップの彩世来夏・♯3トップの望月涼香・同2着の小西雅は、いずれもシーズン1からの連続出場となるシンデレラたちだ。
自分たちの手で大きくしたこの大会で、彼女たちが今後ますます光り輝いていくことを願ってやまない。