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酔客の一打 ーーー「東大を出たけれど」須田良規

酔客の一打 ーーー「東大を出たけれど」須田良規

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「東大を出たけれど」とは
  • 近代麻雀で連載されていた、須田良規プロ(日本プロ麻雀協会)の著作全108話。麻雀ウォッチにて8話分掲載。
  • 作品の発表経緯はインタビューをご覧下さい。

「おい。ビール」
 いつものように酒を片手に打つ中年客。レジ横の冷蔵庫から缶を取りながら、ふと手を見ると、こんな形だった。

 筒子を切れば単騎で聴牌だが、普通は萬子を払ってシャンテンに戻すところ。赤3枚なので、食いタンを視野に入れて打か。
 客は、やや困った表情で切りあぐねている。

「御代、よろしいですか」
 サイドテーブルにビールとグラスを置いて、声を掛けた。
「うるせえな!今話しかけるんじゃねえよ!」
 客から突然怒号が飛ぶ。
 唖然としたが、すぐに謝った。
 この客はいつものことだ。打牌に迷っているとき、メンバーが飲み物を尋ねたりすれば即怒鳴り散らす。
 聞こえない溜息をついて、とりあえず代金を待っていた。
 急かされたように客がを切る。

 考えたってどうせ切るのはその牌だろ、と思っていると、上家からリーチが掛かる。宣言牌は。客は当然チーテンを入れ、打とした。
 ところが無情にも上家の待ちはペン。放銃した瞬間、憮然として客が吐き捨てた。
から切っときゃよかった。メンバーが話しかけるからまた失敗だ。この店はいつもこうだ」
 
 やれやれ、と思った。
 私はもともと、あまり強い気性の人間ではない。誰かに理不尽な仕打ちを受けようが、それを糾弾したり反抗したりすることの方が億劫なのである。我慢が美徳、とも思わないが、客商売にはこういう資質は少なからず必要だとは思う。客の我侭な物言いにいちいち腹を立てていては、仕事にならないのである。
 
「すいませんでした」
 謝ってなお無言でそのまま立つ私に、客は煩そうに代金を手渡した。
「御代頂きました。ありがとうございます」
 
 機械的に唱えながら、そういえば、と冷静に今の手牌を思い起こしていた。
 先にを切っておけば、

 この形で萬子のの受けが残せる。のポンテンは消えるが、9枚のツモを裏目にする方が惜しい。正着は切りだったか。

「なあなあ、先打ちだったろ?」
 振り返って客が言う。
 先ほどその台詞を聞いたときは、で放銃したから、ただそう言っているのだと思っていた。
「・・・そうですね。確かにそうです。すいません、大事な所で話しかけて」
 先刻より神妙に言う。
「まあ声かけるならタイミングがあるからな。頼むよ」
 
 最初の客の言い方が穏やかだったとは言わないが、こちらが考えなしにただ憤然としていては、切りの真の意図さえ汲めないままである。
「言い過ぎたか?でも分かるよな」
 幾分温和な表情の客に、気をつけます、と今度は心から言った。

全108話公開 須田良規プロのnoteはコチラ

 

プロフィール

須田良規(すだ よしき、1975年8月6日 - )島根県出身。東京大学工学部卒業。日本プロ麻雀協会(1期後期入会)A1リーグ所属。
代表作『東大を出たけれど』の原作を自身のnoteで108話公開。

この記事のライター

須田 良規
須田良規(すだ よしき、1975年8月6日 - )島根県出身。東京大学工学部卒業。
日本プロ麻雀協会(1期後期入会)Aリーグ所属。第5期雀王。

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