「二人」「零和」「有限」「確定」「完全情報」の5つの要素のうち、今回は「完全情報」について。「完全情報」とは、全ての情報が全員に公開されていること。例えばすごろくはサイコロというランダム要素があるので不確定ゲームですが、サイコロの目を含め全ての情報が公開されているので完全情報ゲーム。じゃんけんは不確定要素はありませんが、相手がどんな手を出すかという情報を知らない状態で自分の手を決めねばならないので完全情報ゲームではありません。
麻雀は相手の手牌と山牌が非公開なのでもちろん非完全情報ゲーム。前回お話しましたように、サイコロを用いずに配牌やツモを決定することもできるので理論上は「確定」ゲームにしても差し支えありません。また、第13回でお話しましたように、三人以上の多人数ゲームである故に起こる運要素の影響もそれほど大きくはありません。よって麻雀が運に左右されやすい最大の理由は、非完全情報ゲームであるためです。
非公開情報を、何とかして自分にとってだけ公開情報にしよう、あるいは自分にとって都合のよい情報にしよう。非完全情報ゲームである麻雀で、少しでも他家を上回って勝ちたいと思えば、そのように考えることは極自然なことです。積み込みやすり替えといったイカサマ技、配牌やツモをよくするために運気を高めようとするためのオカルト、相手の待ちを一点で言い当てるような手牌読み…いずれも非公開情報を、自分にとってだけ公開情報にすることで勝ちたいという願望から生み出されたものです。
イカサマはルール違反なので除外するとして、ルールの範疇では、非公開情報はどこまで行っても非公開情報。分からないものを分かると思い込んで判断すれば、当然ながら誤った判断になりかねません。しかし、分からないから考慮しないと決めつけてしまうのも早計です。他に公開情報が全く無い段階では不確定情報同様ランダムとして扱うより他ないというだけで、情報自体は確定しています。非公開情報を考慮して打牌に反映されるかどうかは別として、意識はしておく必要があります。
しかし、人は意識すればどうしても考慮を入れたくなり、考慮すればどうしても打牌に反映させたくなるものです。人より多くの情報を認知し、より多くのことを考慮に入れることができる人ほど能力が高いのは間違い有りませんが、そのことが却って判断の妨げになることも多々あるのが麻雀というゲームです。
麻雀は奥が深いゲームと言われることもありますが、極めれば際限なく深く読むことが可能な将棋や囲碁のような完全情報ゲームにこそ「奥が深い」という言葉を用いるのがふさわしいでしょう。麻雀は底が浅いゲーム。しかし人は簡単に溺れてしまい、時には自分が溺れていることにすら気付かない。そのように私は認識しています。