かなり昔の作品になりますが、「はっぽうやぶれ」(竹書房、全6巻)という漫画をご存じでしょうか。作者は「沈黙の艦隊」「ジパング」「空母いぶき」などで知られるかわぐちかいじ氏です。
「はっぽうやぶれ」が描くのは、1970年代前半の「麻雀新撰組」。阿佐田哲也さん、小島武夫さん、古川凱章さん(いずれも故人)らをモデルとする登場人物が、激闘を繰り広げます。
彼らの活躍が麻雀ブームを起こし、その後1976年に「最高位戦」というタイトル戦が始まり、いまの競技麻雀につながる流れをつくったともいえるので(同年の最高位戦を第1期とし、現在、第46期最高位決定戦が行われています)、当時の麻雀文化を知るうえでも、貴重な作品といえます。
ストーリーの軸は、雀風の対比です。花島タケ夫(小島武夫さんがモデル)がドラマチックに高い手を目指し、ギャラリーをどよめかせるのに対し、蟹江凱(古川凱章さんがモデル)は、セオリーを重視し、負けない麻雀を目指します。
この対比は古くて新しい問題で、今もよく議論になるテーマですね。
第16回の「アガリに向かう2つの考え方」と、第17回の「配牌から将来像を構想しよう」でご紹介していますので、お読み頂ければ幸いです。
さて、この話題を繰り返しているのは、牌効率の話を長く続けてきたからです。
牌効率は、いくつものセオリーがあるので、どうしても文章の量が多くなります。
そうすると、「こんなにいっぱいが書いてあるんだから、すごく大事なことなんだな」と感じますよね。
一方、打点を追求する構想力は、それほど長く説明することはありません。
極端にいえば、「配牌を見て、満貫(難しければ3ハン)を意識しましょう」という1行で済んでしまいます。
文章量だけみると、重要度は「牌効率>>>>>>>>>構想力」のようにみえます。
が、実際のところは、両方とも重要です。
では、そのバランスはどう考えれば良いでしょうか。
具体的に考えてみましょう。
1 オーラスで、アガればトップのとき
打点は不要です。牌効率に忠実に打って、1000点の手でいいので一刻も早くアガることが基本になります。
ただ、前述の「はっぽうやぶれ」では、花島はこの局面でも高い手を狙いにいき、作品のハイライトになっています。
2 南2局でラス目、自分の親番はもうないとき
打点が必要な場面です。安い手でアガって局を流してしまうと、逆転の可能性が減ってしまうからです。なんとか高い手になるルートはないか、探しましょう。
では、打点を追求する方法について考えます。
1 配牌がよいとき(アガリに近そうなとき)
素直に牌効率に沿って進め、先制リーチを打つ構想が基本になります。
特に、ドラが1つあれば、「リーチ・ツモ・ドラ」で3ハン。何か役をつけるか、一発か裏ドラで満貫にできます。
赤牌ありだと、ドラは全部で7枚。配牌でドラに恵まれることも結構あります。その場合はまずリーチの可能性を考えましょう。
ドラがないときは、役なしでリーチするとリーチのみ、ツモっても2ハンで、決定打になりにくい。また、自分がドラなしだと誰かが多く持っているので、押し返されやすくなります。
この場合は、リーチだけにこだわらず、何か役をつけることを考えるか、あるいはテンパイまで近そうなら早くアガることを考えます。例え1000点であっても、他の3人のアガリを阻止する意味はあります。
まれに、序盤でドラが3枚以上あることもあります。この時は、役牌でも食いタンヤオでも、役があれば鳴いても満貫になるので、やはりリーチにこだわる必要は薄いです。
2 特定の役(2ハン以上)が狙えそうなとき
サンショク(三色同順)、イッツー(一気通貫)、チャンタなどの2ハン役が狙えるときはチャンスです。メンゼンでできれば、満貫に近づきます。ある程度牌効率に反してでも、狙う価値があります。
もっとも、これらの役は鳴くと1ハンになります。その点、大いに活用したいのはホンイツです。メンゼンで3ハン、鳴いても2ハンあるのは強力です。
配牌で、役牌のトイツがあって、ある色の牌が5~6牌以上あれば、まずはホンイツを意識してみましょう。役牌がなくても、ドラ色のホンイツであれば、3ハンか満貫を狙えます。
3 配牌がよくないとき(アガリが遠そうなとき)
牌効率だけでアガリに向かうと、困ることが多いです。先制される可能性が高いからです。もとより4人で戦っているので、だいたいは先制されてしまうのです。
そのときに、自分が役もドラもないまま何となくアガリに向かい、2シャンテンぐらいだと、やりにくくなります。自らの手が安いため前に出て戦う価値もなく、中途半端に進めて安全牌も少ないと、立ち往生してしまいます。
牌効率をあまり分かっていない初心者の場合、先制されても自分の手も進んでいないので、オリれることが多いです。それに対し、牌効率を学ぶと中途半端に手が進み、オリれずに放銃して負けることがあります。
この現象に限らず「勉強すればするほど、いったん成績が落ちることがある」のが、麻雀の難しいところです。
配牌が良くないときは、「真面目にやらない」勇気も必要です。牌効率を無視し、「ほぼアガレないだろうけど、うまく行ったら高くなるよう打つ」ことも有効になります。
たとえば、国士無双、純チャン、七対手を狙って真ん中の牌から切ったり、その時点で最も多い色のホンイツを無理やり狙いにいく、などです。
だいたい先制攻撃を受けますが、自分の手には安全な字牌や一九牌が多く残っており、放銃を防いで失点を抑えることができます。
牌効率を学ぶと、例えば一打目にを切ると、「これは最初から~の受け入れを捨てていることになるよな…」と、ちょっとためらうかもしれません。ただ、明らかにを切った方が得なこともあるのです。
次回は、打点をつくる手段として、リーチについて考えます。