前回まで、さまざまな牌効率をご紹介してきました。
牌効率に沿って、早くテンパイしてリーチを打てば、ひとまず戦うことができ、初心者脱出といえるでしょう。
しかし、牌効率だけで勝てるかというと、そう甘くないのが難しいところです。
主な理由は、
1 速さだけ優先すると、打点が安い愚形テンパイになりがちで、アガリにくい。アガれても決定打になりにくい。
2 中途半端にテンパイに近づくと、安全牌がない状態で他家の攻撃を受け、振り込みやすくなる。
の2点です。
牌効率の知識が重要なのは間違いないのですが、それだけで戦うと負けやすくもなるのですね。
場合によって、一見牌効率に反する考え方をした方が良いこともあるのです。その代表例として「テンパイをとれるのにとらないケース」を紹介しましょう。このことを「テンパイとらず」と呼ぶこともあります。
例1)
ツモ
かを切ればテンパイです。が、役なしでのペンチャン待ちになり、苦しい形ですね。
先制攻撃に価値があるときや、が山にありそうな時は、待ちでリーチしても良いのですが、テンパイをとらずにを切る手があります。
ここからテンパイする牌は、以下の8種類です。
をツモる→を切るとサンメンチャン待ちでテンパイ
をツモる→を切るとリャンメン待ちでテンパイ
をツモる→を切るとノベタン待ちでテンパイ。の場合は役もつく
をツモる→かを切るとシャンポン待ちでテンパイ。でアガれば役もつく
待ちは良くないですが、かをツモってを切れば、カンチャン待ちで一応テンパイをとれます。
また、赤牌のドラがあるルールだとは、をツモることによる打点上昇の楽しみもありますね。
を引いてを切ると最高で、
となります。第20回で登場した強い形「4連形」が2つある、素晴らしいイーシャンテンです。
この状態からテンパイする牌は、
からの8種類、からの7種類とで、あわせて16種類もあります。やはり4連形があると手が伸びやすいですね。
これだけ発展の可能性があるなら、早まってテンパイをとらない方が良さそうです。果実が青いうちに収穫するのではなく、もっと熟しておいしくなってから食べよう、というわけです。
例2)
ツモ
を切ればテンパイですが、役なしでのカンチャン待ちになります。
よくみると、以外はすべて1~3か7~9の牌、つまり純チャンを作れる牌ですね。
純チャンはメンゼンで3ハン、鳴いても2ハンあるので、狙う価値があります。
であれば、テンパイをとらずにを切るのはどうでしょう。
こうすると、次にのいずれかを引けば、純チャンをテンパイしますね。
特にかを引けば、さらに123の三色も狙えます。一気に大物手のチャンスです。
このように、大幅に打点が上昇する可能性があるときは、やはりテンパイをとらないことが有力な選択肢になります。
今期のMリーグでは、開幕した2021年10月4日に、テンパイとらずの印象的な場面がありました。
第2試合の南4局1本場、2着目で迎えた親の日向藍子選手(渋谷ABEMAS)は、4巡めで次のような状態になります。
ツモ
を切ればのシャンポン待ちテンパイになりますが、役はなく、待ちの形も強いとはいえません。
日向選手の選択は、切りのテンパイとらずでした。
この形は、とのくっつきテンパイですね。第28回で触れたように、くっつきテンパイは、イーシャンテンの中で最も受け入れが多い形です。
上記の形であれば、からの5種、からの5種との11種でテンパイできます。まだ巡目が早いこともあり、日向選手は将来性にかけたわけです。
狙い通り、この後をツモってリーチ。ツモで、リーチ・ツモ・ピンフ・赤に裏ドラを乗せて4000オールのマンガンに仕上げ、実況の日吉辰哉プロ、解説の土田浩翔プロから、見事な判断だとたたえられていました。
テンパイできるのにあえてとらないのは、最初は勇気がいると思います。テンパイとらずをした結果、他家にあっさりアガられたり、放銃したりして、悔しい思いをすることも多くあるでしょう。
ただそれでも、トータルでみれば、テンパイをとらない方が得な場面はありますので、経験をつんで、ご自身なりの基準をつくってみてください。
テンパイとらずと同様、イーシャンテンとらずなど、途中の段階でも、牌効率に逆らう場面は数多くあります。もっとさかのぼれば、配牌時から、牌効率通り打たないこともしばしばあります。
これは、序盤の構想力の話につながっていきます。次回にご紹介しましょう。