「ラスベガスをぶっつぶせ」という映画があります(予告編動画)。
穏やかでないタイトルですが、乱暴な手段でつぶそうという話ではありません。
米国のマサチューセッツ工科大学(MIT)の学生らが、頭を使ってカジノのブラックジャックで勝負するストーリーで、実際に起きた事件がもとになっています。
彼らが武器にしたのは、トランプの「カウンティング」という技術。
既に出たカードの種類と枚数を覚えて、まだ使われていないカード(これから出てくるカード)の種類の偏りを計算し、勝負に生かす方法です。ただ、カウンティングは客に有利になりすぎるため、多くのカジノで禁止されています。主人公らは大金を稼ぐものの、発覚してピンチに陥ります。
麻雀も、1種類の牌が4枚あるのは、トランプと同じです。例えば、自分がを2枚持っていて、かつ他家が2枚捨てていたら、もう他家の手の中や、山の中には、1枚もないことがわかります。
このような意味でのカウントは、もちろん禁止されていません。というより、麻雀の最も基本的なことがらの一つです。
対局中に、自分から見える牌は、
1 自分の手牌
2 ドラ表示牌
3 河に捨てられている牌
4 他家が鳴いた牌、アンカンした牌
の4種類あります。
「他家の手の中を読む」ことはもちろん大事で、目指すべきなのですが、簡単ではありません。
高度なことをする前に、まず「見えているものをきちんと確認する」基本を固めるのがおすすめです。
もっとも、トランプと異なり麻雀牌は34種類あるので、「今はが2枚、が3枚見えていて、はまだ1枚も見えていないな。は…」などとリアルタイムで全て把握することは難しいですね。最初は、次のようなポイントを意識してみましょう。
A ドラ
第7回で紹介したように、ドラはとても重要です。終盤になって1枚も見えないと、誰かがかためて持っている恐れもあります。
余裕があれば、ドラの周りの牌も気にします。例えばドラがで、が4枚とも見えているとしましょう。の形で持っている人はいないと分かるので、誰かがをアタマか暗刻で使っているんだろうなあ、ちょっと警戒するかな、と考えることができます。
B 自分にとって必要な牌
リャンメン待ちや多面待ちは、強い待ちですね。強い理由は、枚数が多いからです。のリャンメン待ちは、との2種類、あわせて8枚。一方、のカンチャン待ちはの1種類4枚だけです。8枚と4枚で、2倍違います。
しかし、すでに下家がをカンし、上家がをポンしていたらどうでしょう。8枚中7枚が既に見えており、残りは1枚だけです。一方、はまだ1枚も見えていないとします。当然、待ちの方が期待できますね。一見リャンメン待ちの方が形はよいのですが、残り枚数を考えて、実質的に強い待ちなのかを確認しましょう。
C 重要な字牌
東場の、南場ののような牌です。これらがあると、ダブ東、ダブ南で2ハンになる可能性もあります。終盤まで見えないと、誰かが暗刻で持っているリスクを考えましょう。
字牌はふつう、不要牌として序盤に切られることが多いです。にもかかわらず、中盤、終盤になっても多くの字牌が不自然に出てこない局面も、注意が必要です。誰かが複数の字牌を暗刻で持って、高い手を育てている恐れがあります。
また、自分が重要な字牌を2枚持っていて、ポンしたいときは、その牌が河に捨てられていないかを見ましょう。当たり前ですが、既に河に2枚切られていたらもうポンはできません。アタマとして使うか、捨てるか、安全牌としてキープするか、という選択肢になります。
D 高い手を作ろうとしている他家が欲しい牌
他家がとをポンしたら、の枚数を確認します。もし自分が2枚持っていれば、自分がを捨てないかぎり、大三元は阻止できます。3枚持っていれば、小三元も防げますね。鳴いた人はをツモれ!と気合を入れているでしょうが、ひとまず安心して手を進められます。
同じく、中張牌をビシビシ切って国士無双を目指している人がいたら、一九字牌の枚数を見ます。どれか1種類でも4枚見えていたら、国士無双は絶対にできませんので、安心できます。例えば、が河に1枚切られていて、自分が3枚持っていれば、国士無双は阻止できています。一方、狙っている人は「まだ1枚しか捨てられていないからツモれる」と期待しているでしょうし、他の2人は、まだ国士無双を恐れているかもしれません。
4人のなかで、自分だけが「この人が狙っている役は絶対に完成しない」と知っている状況は、相当有利なときがあります。
E 七対子を狙うときの待ちの候補
七対子を目指すときは、これから引きたい牌の枚数を数えます。ふつうは、中張牌より一九字牌を残すのがセオリーですが、一九字牌であっても、既に3枚河に切られていれば、当然ながら絶対にツモれません。一見よい待ちだと思っていたら実は1枚もなかった、、、ら悲しいので、よく確認しましょう。
なおテンパイ時には、河に1枚切れている字牌(特にオタ風)で待つ場面がよく見られます。自分が1枚、河に1枚なら、残りは2枚。ツモも期待できますし、他家が「1枚切れているから生牌じゃないな」と判断し、捨ててくれる可能性も高いからです。
一方、1枚も切られていない字牌で待つと、他家に暗刻で持たれている可能性もありますし、生牌なので警戒して捨ててくれないことがあり、微妙な判断になります。もちろん、山に3枚残っていて、ツモれる可能性もあるのですが。
F 自分がカンできる牌
ある牌を暗刻で持っていたり、ポンした時は、カンをできる4枚目が残っているかを見るとよいです。
一般的なルールでは、カンをすればカンドラが増えますし、リーチしてアガればカンウラも見られます。
ドラ表示牌が合計4枚になり、ドラが乗るチャンスが大幅に増えます。一度のカンが、戦局をひっくり返すことも珍しくありません。
今年3月8日のMリーグ第1試合のオーラスでは、印象に残る場面がありました。トップと5600点差だったサクラナイツの内川幸太郎選手が、タンヤオ赤赤をテンパイ。ドラのでアガれば満貫で逆転ですが、をツモると1000/2000で2着止まり、という状況になりました。
すると、ポンしていたの4枚目をツモって加カン。カンドラは、自分が3枚持っているになり、一瞬でタンヤオ赤赤ドラ3の跳満に育ちました。その後をツモった内川選手は、文句なしの勝利をおさめました。
カンをできる確率は高くはないですが、常にその可能性を確認し、4枚目を持ってきたときにカンをするか事前にイメージしておくと、スムーズに判断できます。
ところで、局が終わっても、決して見られない牌があります。最後に残る14枚の王牌(わんぱい)のうち、ドラ表示牌を除く牌です。極端な場合、たかはしさんの『りーち、ですっ♪』148話のように、欲しい牌がことごとく王牌でした、ぐぬぬ、という結末もありえます。いかに丁寧に牌をカウントしても、これは予測できないですね。
Mリーグ2020の最終日(5月18日)は、全8チームの選手が表彰式会場で取材に応じて下さったのですが、「麻雀の魅力」を聞かれたフェニックスの和久津晶選手が「王牌」と答えていたのが心に残りました。「王牌という、未確定な部分があるからこそ、少しでも麻雀の核心に迫ろうとするし、いつまでも追い続けることができる」。
和久津選手は、いつも意外性のある言葉で、麻雀の本質を伝えてくれている気がします。「麻雀ウオッチ」の人気連載「Mリーガー列伝」のインタビューでは、麻雀を「思いやりのゲーム」と捉えていました。「そんな考え方があるのか」と驚くとともに、理由を読んで共感しました。和久津選手の生き様や、プロをやめる寸前だった話など、深い内容なので、ぜひお読みください。
次回は、「アガリへの考え方は大きくわけて2つある」というテーマでお届けします。