今日はリーチ宣言牌のお話です。
リーチへの対応について、改めて資料や本を読んでいたところ、「リーチの待ちなど、ほぼわかりません」という力強い?一節に目がとまりました。著者は鈴木たろうプロで、「迷わず強くなる麻雀」(講談社)の188ページに、目立つよう赤色で記されています。
まさにその通りなんですが、実績のあるプロがはっきり言い切るのは、ちょっと勇気がいりますよね。会社の会議などで、あいまいなことでも何となく説明してしのいでいる私(実はしのげていないのかもしれない)は、「わからない」と言い切る強さに憧れます。
ただ、この本ももちろん「わからない」で済ませるのではなく、それを前提としつつ、多くの道しるべが示されています。攻守の考え方が1冊で学べる名著なので、改めておすすめしたいと思います。
さて、リーチ宣言牌についても、それを見ただけでは待ちはわかりません。が、ヒントはあるので、一般に言われていることを2つ紹介しましょう。
1 安全牌を切って宣言したリーチは好形(リャンメン待ち以上)が多い。
2 宣言牌の裏スジの牌が待ちのことは、比較的少ない。
1は、待ちが悪ければ安全牌を持つ余裕はないので、最後まで安全牌を抱えているのは、待ちが良い証拠だ、という理由です。好形待ちだとわかれば、そのリーチに対しては、すでに切られている牌のスジや字牌を通しやすくなります。スジの牌や字牌はリャンメン待ちには当たらないからです。
2の「裏スジ」は、1に対して2と5、4に対して5と8など、ある数牌に対して、隣の牌とスジの牌のことをいいます。例えば、を切って宣言したリーチに対しては、裏スジののリャンメン待ちであることは少ない、という読み方です。考え方は以下のとおりです。
もし待ちなら、手の中にがあるはずです。
ということは、リーチ直前にの形で持っていたことになります。しかし、こんな中途半端なを最後までぼんやり持っていることは多いでしょうか?
ツモ
これは、2022年2月1日のMリーグ第2回戦南4局、園田賢プロの5巡目です。5ブロックが見えていることもあり、を切ります。を残すと、引きはもちろん嬉しいですし、引きでもイーペーコーに発展するので、はお役御免というわけです。
このようなケースが多いので、切りリーチで待ちのケースは少ない、というロジックです。
1も2も理屈はわかりますが、実戦で本当に使えそうなセオリーでしょうか?
気になったので、今シーズンのMリーグの牌譜を見てみました。
Mリーグには、オフィシャルサポーターという仕組みがあり、会員になると全対局の牌譜を見られてとても便利です。この機能を使って、今シーズンの各月の初めと半ばの対局(2021年10月4日と18日、11月1日と16日、12月2日と16日、2022年1月3日と17日、2月1日の計18半荘)を抜き出し、すべてのリーチを検証してみました。
この18半荘では、合計182回のリーチが打たれ、うち97回(全体の53%)がアガリに結びついています。
まず、
1 安全牌を切って宣言したリーチは好形(リャンメン待ち以上)が多い。
については、該当するリーチは182回中16回あり、うち14回はリャンメン待ち以上の好形でした。確かに好形率が高いですね。2月1日第2回戦、東4局1本場の魚谷侑未プロのリーチはこんな形です。
ツモ
→切りリーチ
教科書通りのリャンメン×リャンメンのイーシャンテンで、これなら安全牌のを持ち、余裕をもって進められます。
ただ例外はあり、11月16日第2回戦東1局の朝倉康心プロのリーチはこんな形でした。
ツモ
→切りリーチ
サンショク(三色同順)がはっきり見えているので、ほかの数牌を持つ必要がなく、安全牌のを持って進めていたわけです。「安全牌切りなので絶対に好形」と過信するのは禁物です。
2 宣言牌の裏スジの牌が待ちのことは、比較的少ない。
についてはどうでしょうか。
今回調べた182回のリーチのなかでは、宣言牌が数牌のケースは161回ありました。そのうち、宣言牌の裏スジの牌が待ちになっていたケースは8回でした。割合では約5%です。
一般に、リーチに対して無スジの数牌を切ったときの平均放銃率は10%を超えるとされていますので、それに比べるとかなり安全そうではあります。
ただ、この少ないサンプル数の中でも8回あるように、決して安全牌というわけではありません。
今回見たなかから、3つ紹介しましょう。
●11月16日第1回戦東1局 近藤誠一プロ
ツモ
→切りリーチ
678のサンショクの可能性もあるためを残していたところ、テンパイしたので切りリーチで裏スジのが待ちになったケースです。
●12月16日第2回戦南1局 高宮まりプロ
ツモ
→切りリーチ
たまたまとのくっつきテンパイの形だったため、宣言牌の裏スジ、待ちになっています。
●2月1日第1回戦東2局1本場 松ヶ瀬隆弥プロ
ツモ
→切りリーチ
をアンコで持っていると、からまで何を引いてもテンパイできる、強いイーシャンテンになります。そこにを引いたので、結果的に、宣言牌の裏スジ待ちになっています。
実のところ「宣言牌の裏スジの牌が待ちのことは、比較的少ない」という話は、かなり浸透しているのですが、小林剛プロは「確かに有効なセオリーだけど、いくらでも例外はあるよ」ということで、著書「スーパーデジタル麻雀」(竹書房)の中で警鐘を鳴らしています(P124「流行りのセオリーもどきに飛びつくな」)。とても興味深い論考なので、ぜひご覧ください。
今回見た牌譜はMリーグというレベルの高い舞台で、かつサンプル数も少なく、一般性があるかは微妙ですが、私自身は、
1 安全牌を切って宣言したリーチは好形(リャンメン待ち以上)が多い。
2 宣言牌の裏スジの牌が待ちのことは、比較的少ない。
の2つのセオリーは、確かにある程度使えそうだなあ、という実感を得ました。
もちろん例外はあるので、スジやワンチャンスなどと同様、あくまで安全度を推測する材料の一つ、という位置づけですが…。
もう一つわかったことは、宣言牌を含むリーチ者の河の牌と、待ち牌の間には、何の関係もないケースの方が圧倒的に多い、ということでした。そりゃそうだろうとは思いますが、少し統計をとってみただけでも実感できます。鈴木たろうプロの「リーチの待ちなど、ほぼわかりません」という言葉は至言ですね。
次回は、そんなわからない中での対策として「自分が複数持っている牌を切る対応」を紹介します。