麻雀は、つまるところ、どんなゲームなのか?
多くの人がいろいろな表現をしていますが、私がもっとも共感する一つが、鈴木たろうプロによる「自分が負っているリスクを的確に計るゲーム」(講談社「迷わず強くなる麻雀」P198より)という定義です。
ふつう、麻雀に初めて出会った方が、魅力に感じる要素は、牌の造形の美しさだったり、「アガれたら楽しそう!」という感情ですよね。最初から「これはリスクを計れそうで楽しそう!」という人がいたら、相当マニアックな人か、危機管理の専門家ぐらいでしょう。
実のところ、「楽しそう!」という素朴な感情から始めて、「実はリスクを考えるゲームなんだな」と気づく過程こそが、打ち手としての成長だといっても過言ではありません。
私もそうですが、多くの人にとって、リスクを考えることは、楽しいことではないですよね。
例えば、4月から新しい学校や職場に通おうという時は、「どんな出会いがあるかな」とわくわくしますが、「気の合わない人がいたらどうしよう?」などと考えるのは避けたい。
日本には「言霊(ことだま)」という伝統もありますし、嫌なことを考えるだけで、本当に嫌なことが起こりそうな気もします。それが行きすぎると、自分にとって良いことは積極的に考え、良くないことには目をつぶる姿勢になりがちです。
鈴木たろうプロは、「麻雀打ちはみな、アガリというリターンは積極的に計るが、リスクはあまり正確に計らない傾向がある」とも書いています。耳が痛い。
では、具体的に、多くの人がリスクを計りにくい場面は何でしょうか?
代表例は、他家が鳴いているときです。
リーチは、ある意味分かりやすいですよね。必ずテンパイしていますし、一発や裏ドラもあって平均打点が高いので、誰でも警戒します。
一方、鳴いた手はテンパイしているか不明で、「役牌のみ」「食いタンヤオのみ」で1000点、あるいはドラが1個あって2000点程度で済むこともあり、つい軽く考えがちです。私も、他家が仕掛けているときに、「これぐらい大丈夫だろ」と切った牌で高い手に放銃し、何度も痛い思いをしてきました。
まず、仕掛けた手がテンパイしているかは、統計分析などをもとに、次の基準がよくいわれます。
1 河が1列目(1~6枚目)は3フーロ
2 河が2列目(7枚目~12枚目)なら2フーロ
3 河が3列目(13枚目)なら1フーロ
(フーロは鳴いた数で、「副露」とも書きます。例えばポンを1回、チーを1回していたら2フーロです)
他家がこの状態なら、半分ぐらいの確率でテンパイしていると見て対応するのがよい、というものです。
もちろん、同じ2列目でも、7枚目と12枚目では差があるので、調整が必要です。例えば12枚目で2フーロなら、相当テンパイしていると考えてよいでしょう。
また、「鳴いた後に手出しをしているか」も重要になります。
牌を入れ替えると、だいたいシャンテン数が減るので、手出しの回数が多いほどテンパイの確率は高くなります。
鳴いた他家がいたら、その後ツモ切りするか手出しするかは要チェック!です。
そのうえで、まず大事にしたいのは「高そうな仕掛けに振り込まない」ことです。
いろいろなパターンを見ていきましょう。
1 字牌を2つ以上鳴いている
もしとをポンした人がいたら、大三元を警戒しますよね。
字牌を2つ鳴いた人がいたら、「他の字牌が自分の目から見えているか(自分が持っている枚数と河やドラ表示牌で見 えている枚数)」を確認しましょう。
字牌がほとんど見えていなければ、万一の字一色、大四喜、小四喜の可能性もありますし、他の役牌が絡んだ高い手の
こともあります。
また、字牌を2つ鳴くと、トイトイ、ホンイツ、チャンタ、ドラなどと複合し、満貫以上のケースも増えてきます。
2 ドラをポンしている
「役牌ドラ3」「タンヤオドラ3」などで満貫以上が確定です。
リーチよりはるかに警戒すべきで、ほとんどの場合、素直に退却した方がよいでしょう。
3 ダブ、ダブをポンしている
既に2ハンあり、すぐに満貫になるリスクが高い状態です。
特にダブは、親の満貫(12000点)につながりやすいので、最大限警戒しましょう。
12000点の手を作るのは大変ですが、12000点の手に振り込むのは一瞬です。
4 ホンイツ、チンイツ
一色に染めて、他の色が多く切られるため、比較的わかりやすい手です。
特にドラ色のホンイツやチンイツは、高くなりやすいので、気をつけましょう。
ホンイツやチンイツの他家がいるときは、
・チンイツかどうか
(字牌を多く切れば、チンイツの可能性がある。鳴いても5ハンなので高い)
・役牌が自分から見えているか
(見えていなければ、役牌が絡んだホンイツで高くなりがち)
・染めている色の牌が余ったかどうか
(例えば、マンズを集めている人がマンズを切ってきたら、既に手の中はマンズであふれており、テンパイの可能性
が高まります)
などがポイントになります。
5 トイトイ
トイトイは符ハネしやすく、満貫にならず3ハンでも40符で5200点(親だと7700点)になりやすいため、放銃する
とダメージを受けます。
例えば序盤にをポンした人が、その後ソーズを多く切っていたら、ホンイツではなく、もちろんタンヤオでも
ないので、トイトイの可能性が浮上します。
トイトイへの放銃を避けるには、既に見えている枚数がポイントです。既に3枚見えている牌なら当たることはあり ませんし、2枚見えの牌も、タンキ待ちにしか当たらないので、安全度は高いといえます。
矢島亨プロが2021年に出版された著書に、「高打点鳴き麻雀」(マイナビ)という本があります。
鳴いてもいくらでも高い手はできるぜ!という興味深い1冊で、ホンイツやトイトイを中心に、鳴きながら高くするルートが紹介されています。私はこれを読んで、「鳴いた手=安い」というイメージを根本から変えないとなあ、と感じました。
話の舞台が広くなりますが、世の中には、災害、事故、犯罪、病気などのリスクがあふれています。それゆえ、リスクをカバーする「保険」が、巨大なビジネスとして成長してきました。危機管理の考え方も浸透しています。
それでもなお、リスクを正しく評価することは、とても難しいことです。ほんの数年前には、世界中を新しい感染症が覆ったり、欧州で戦争が起こったりする未来は、想像されていませんでした。
私が勤める新聞社も、過去、不祥事への対応を誤り、何度も自ら危機を招いています。自社の都合だけで考えて、「客観的にどう見られるか」などの視点が欠けていたんですね。その痛切な反省は、今の経営に生かされていますが、当時は、経験豊かな大人でも、こんなにも自分勝手に状況を解釈し、リスクを軽視するものなのかーーと身にしみました。
麻雀は、他家をリスペクトせずに、自分に都合良く考えていると、絶対に勝てない仕組みになっています。
否応なく、自らのおごりや軽率さを突きつけてくれるゲームなので、麻雀に打ち込めば打ち込むほど学びがあり、人格も磨かれていくと思います。
次回は、今回の話を裏返して、「鳴き手への警戒感を利用した打ち方」をご紹介しましょう。