Mリーグ初代チャンピオンに輝いた頭脳派集団、赤坂ドリブンズのトライアウトを経て、ドラフト指名された浅見真紀プロ(最高位戦日本プロ麻雀協会)。子育てをしながらMリーグに参戦という多忙な日々の中で感じていることとは?
幼少期に熱中されていたことは?
浅見プロはふたり兄妹で育った。「漫画『ビー・バップ・ハイスクール』に出てくるような2歳上のやんちゃな兄がいて、幼少期はよく喧嘩してました。そんな兄を私は反面教師にして勉強しようと思っていました(笑)。幼稚園の頃は小学生だった兄がやっているドリルを解いてみたいと一緒に勉強したり、チラシの裏に絵を描いたり。両親が共働きだったんですが、絵を描いていたら時間が経つので、ひとりでいても全然苦じゃありませんでした」
「小学校の時はリズム縄跳び部や卓球部に入っていました。中学からは女子校で3年間バスケ部、高校では天文学部に入りながらバンドを組みたかったので、学校になかった軽音楽部を作りました。学校から楽器を買ってもらって、私はギターを担当してMr.Childrenの“星になれたら”などを練習していました。厳しい学校だったんですけど、その厳しさの中でどれだけ自由にできるのかを模索する日々でしたね」と勉強だけでなく部活動にも活発な子だった。
なぜ千葉大学工学部デザイン工学科に?
浅見プロの人生選択は“楽しいかどうか”が基準だ。「母が看護師だったこともあって薬学部志望だったんですが、私にとっては薬学よりデザイン関係の方が熱心に取り組めそうかなと思い、千葉大学工学部デザイン工学科を受験しました。ただ卒業するタイミングで、今社会に出ても私は何もできないなと思ってしまいました。やりたいことをやるのに適切な技術を持っているとも思えなかったので、大学院に進学してメディアデザインを学び、広告プランナーを目指していました。商品開発をする上で広告展開をどうするのか、デザイナーの観点も持った広告人として仕事ができたらいいなと思っていました」
麻雀を始められたきっかけは?
麻雀は大学1年生の時に友達に誘われて始めたという。「ルールも役も何も知らないまま卓に座らせれて『はいどうぞ!』みたいな感じでした(笑)。牌の絵柄って綺麗だなと思いながら説明を聞いていたら、どうやら数字が関与しているパズルみたいなものという印象。何も書かれていない字牌の"白"ってなんなんだろうという疑問が湧いたことはよく覚えています(笑)。以来、麻雀が大好きになり、同じ学部の仲のいい女の子達に広めたら、みんなハマってくれたので、授業の空き時間などもよくやってましたね」と麻雀好きが高じて、大学3年生の頃から麻雀店でアルバイトするまでになった。
プロ入りされた経緯は?
就職先の内定も決まっていた大学院卒業前、2010年に最高位戦日本プロ麻雀協会のプロテストを受験した。「合格できるかどうか試してみたいなと記念受験的な気持ちで1月にプロテストを受けました」
しかしプロテストに合格後、心境に変化が現れたという。「せっかく麻雀プロになったのであれば、仕事も麻雀プロとしての仕事に全振りしたほうが麻雀も強くなるし、麻雀プロとしてもいいのではないかと悩みはじめたんです。内定先も第一志望ではなかったこともあり、そこで何年か働いていつか転職するぞという気持ちもあったので、そんな中途半端な気持ちなら、麻雀プロ1本でどれだけやっていけるか試したい。両親、とくに母親は大反対でしたが、最終的には内定をお断りし、麻雀の世界1本で生きていく決心をしました」
「当時、両親には申し訳ないことをしたと思っていたのですが、今はMリーグを楽しみにしてくれていて、初勝利の時も『よかった、よかった、おめでとう』と喜んでくれました。母親はドリブンズの試合のない日も全部見て、全選手の成績をメモ帳に書いているぐらい応援してくれています(笑)」
トライアウトを受けようと思われたきっかけは?
トライアウトを打診された時点では葛藤もあったという。「私が外から見ていたMリーグのイメージって、すごく知名度があったり、タレント性に優れていたり、タイトルもたくさん持っていて実績もしっかりあるなど、そういう人がMリーガーであるべきで、そういう人たちが活躍することが素晴らしいことだと思っていました。私自身は子供がまだ小さいこともあり、麻雀に対して自分の生活の全てを注ぎ込める余裕も無いので、Mリーグのイメージとは違うなと思っていました。だからトライアウトのお声がけを頂いた時、最初はお断りするつもりでした」
そんな浅見プロの背中を押したのは、夫であり麻雀プロでもある橘 哲也プロ(日本プロ麻雀協会)だった。「ただ麻雀プロになった頃の気持ちを思い返してみると、内定を断ってまで麻雀プロ1本で生きていこうと思った時を思い返すと、毎日麻雀がしたかったからという思いがあったことを思い出しました。今は家庭を持って麻雀以外に時間を費やすことがたくさんある中でも、許されるのであれば、残った時間をすべて麻雀に使えるってすごいことだよなと思い直し、夫に相談しました。そうしたら『そんなチャンスを断るだなんてバカなんじゃないか。落ちたら落ちたでしょうがないし、受かったら人生変わるし。もし受かっても悲しいことがあるかもしれないけれど、いいことのほうが絶対多いだろうし、生活スケジュールは大変になるだろうけれども、それは協力するから』と言ってくれたので受けてみようかなという感じでした」
トライアウトに向けて何か対策をされたのですか?
赤坂ドリブンズのトライアウトは非公開で行われ、内容は事前に明かされなかったという。「プロテストのような問題が出る可能性もあるのかなと思って、最高位戦の過去のプロテスト問題には目を通しました。でも試験内容はSPI試験のような個人の資質を測定する問題が多くて、少しだけ麻雀の問題が出たという感じでした。1次試験通過者に2次試験でも筆記試験がありますという案内があり、1次試験の模範解答をすべておさらいして、解けなかった問題を復習して2次試験に臨んだら、2次試験でも同じような問題が出たので、解けるようになっていて、そこを評価してもらったようでした」とトライアウトに合格し、赤坂ドリブンズからドラフト指名された。
チームで戦うMリーグ。Mリーガーになって感じられていることは?
赤坂ドリブンズは園田賢プロ、鈴木たろうプロ、渡辺太プロ、浅見プロという4人体制のチームだ。「想像していた100倍以上、楽しい環境です。1戦1戦打つごとに、尊敬しているチームメイトの3人がちゃんと話を聞いてくれて、一打一打の牌譜を検討してくれています。3人の意見が異なることもあり、それも面白くて、そういう時間を過ごせていることが糧になっています。おかげで成長できている気がするのもすごく嬉しいし、応援してくれる人が本当に増えた実感もあります。もちろんプレッシャーは感じているけれど、プレッシャーを感じられないと強くはなれないので、今は恩返しをしていかなければという気持ちで戦っています」
Mリーガーになってからネット麻雀を打つ機会も飛躍的に増えたという。「これまでずっと打ってきていなかった赤アリ麻雀の打数が足りていないことは自覚しているので、とにかく経験を積むことと牌譜の見返しなど、自分の焦りを抑えるために打っているのかもしれません」
子育てしながらのプロ活動。時間の使い方で工夫されていることは?
Mリーガーになってからは生活環境がガラッと変わったという。「対局日は家に帰るのが午前0頃。そこから対局を見返すと明け方になってしまい、1時間ほど寝たら子供の朝の準備。保育園には夫が連れて行ってくれるので、見送った後に午前中に寝て、昼過ぎに起きて家のことをやって、ネット麻雀を打って、夕方に息子が帰って来るといった感じです。寝る時間はぐちゃぐちゃで、生活スタイルは不規則になっているので、とにかく体調管理はしっかりしないといけないなとは思っているんですけど、体は強いほうなので今はなんとかなっています(笑)。夫は会社員でもあるので交渉してテレワークを増やしてくれるなど、働き方を変えて協力してくれていることは本当に助かっています」
“観る雀”ファンにどんな麻雀を見せたいですか?
浅見プロは「守備を忘れた特攻シンデレラ」というキャッチフレーズを持っている。「押しているところは見てほしいですね。相手からリーチや仕掛けを受けても攻め返していったりなど、とくに麻雀を始めたばかりの人にとっては面白いんじゃないかなと思います。押し返してもメリットがいっぱいある時も多いし、もちろん押し返して放銃してしまってラスになることもあるんですけど。オリてもラスだし、放銃は悪いことでは無いと、チームメイトだと渡辺太プロや鈴木大介プロ(BEAST Japanext)は押し返し型だと思うんで、押し返し勢の一員として頑張っていきたいですね」
普段のリラックス方法は?
対局前に音楽を聴くと心が落ち着くという。「ロック系が好きで、受験勉強の時もずっと聴いていたんですが、うるさい音楽が一番落ち着くんですよね。一番好きなバンドはHi-STANDARD(ハイスタンダード)。どの曲を聴いてもテンションが上がるので、Mリーグだとスタジオに来るまでに聴いたり、最高位戦のリーグ戦の時も直前まで聴いています。Hi-STANDARDの横山健さんがMリーグ好きで、萩原聖人さん(TEAM RAIDEN/雷電)が横山さんのラジオにゲストで呼ばれていたんですけど、私もいつかお会いできたらいいなと夢見ています」
浅見プロにとって麻雀とは?
「麻雀に出会う前までは自分からやりたいとかこれが好きというよりは、こうしておいた方がいいんだろうなみたいな感覚で生きて来ました。そういう抑え気味な気持ちを全部取っ払って、やりたいからやっている、楽しいからやっているというのは麻雀だけだったので、麻雀に出会ったおかげですごく楽しい人生を過ごさせてもらっていますね」
◆写真:河下太郎、インタビュー構成:福山純生(雀聖アワー)
浅見真紀(あさみ・まき)プロフィール
1985年8月30日、埼玉県所沢市生まれ。O型。千葉大学大学院工学研究科デザイン科卒。最高位戦日本プロ麻雀協会、赤坂ドリブンズ所属。2010年に第9回野口恭一郎賞(女性棋士部門)を獲得し、 第9回女流モンド杯出場。キャッチフレーズは「守備を忘れた特攻シンデレラ」。好きな役はホンイツ。勝負めしはつけ麺。
年 | 年齢 | 主な出来事 |
---|---|---|
1985 | 0歳 | ふたり兄妹の妹として誕生 |
1991 | 6際 | 小学校ではリズム縄跳び部、卓球部に入部 |
1997 | 12歳 | 豊島岡女子学園中学校入学、バスケ部に入部 |
2000 | 15歳 | 豊島岡女子学園高等学校入学、天文学部と軽音楽部に入部 |
2003 | 18歳 | 千葉大学工学部デザイン工学科入学 |
2007 | 22歳 | 千葉大学大学院工学研究科デザイン科入学 |
2010 | 24歳 | 千葉大学大学院工学研究科デザイン科卒業 最高位戦日本プロ麻雀協会に入会 第9回野口恭一郎賞(女性棋士部門)獲得 |
2011 | 25歳 | 第9回女流モンド杯出場 |
2017 | 31歳 | 橘 哲也プロと結婚 |
2019 | 33歳 | 第1子誕生 |
2023 | 38歳 | 赤坂ドリブンズのトライアウトを経てドラフト指名 |