麻雀事業を手がける会社で働きながらプロ活動という2足のわらじで活躍している醍醐大プロ(最高位戦日本プロ麻雀協会)。Mリーグ2023-24ドラフト会議にて、セガサミーフェニックス・近藤誠一監督からドラフト指名され、Mリーガーになった今、思うこととは?
小中学校時代に熱中されていたことは?
中学受験のため、醍醐プロは小学校5年生から進学塾に通っていた。「慶應中等部に入学してからは友達と一緒にラグビー部に入部しました。戦略的なスポーツなのでとても面白い競技で、筋トレもよくやってましたね」
麻雀を覚えたのはいつ頃だったのでしょうか?
「中学3年生だった14歳の頃、ラグビー部の部室で仲間とカード麻雀をやったのが最初でした。もともと考えることは好きだったので、高校生になった頃はどっちの牌を切ったほうが待ち牌の数が多いとかをよく考えてましたね。ミステリー系の本も好きで、作家で言えばアガサクリスティや江戸川乱歩などはよく読んでました。最近は漫画を読むことが多く『トモダチゲーム』や『今際の国のアリス』といったちょっと難しいとされる作品が好きですね」
大学時代に夢中になっていたことは?
醍醐プロの父親は歯科医院を経営していた。「後を継ごうと思っていたので父親に相談したら『歯医者は数が増えすぎて今後は患者さんの取り合いになっていく。手先もあまり器用じゃないだろうから、あまり勧めないけどな』と言われたので、歯学部のある大学ではなく、エスカレーター式で慶應大学経済学部に進学しました。大学には6年間在籍しましたが、ずっと麻雀店でアルバイトをしていたので、大学関連の友達より、バイト先を中心に麻雀関連の友達のほうがだいぶ多かったですね。最終的には親に相談して中退し、麻雀店の社員になって働き始めました」
「ただ30代を前に会社勤めもしてみたいという気持ちになったんです。お客さんの中に人材派遣会社を経営されている方がいたので相談してみたら何社か紹介してくれました。その中に飲食店のタッチパネルシステムの開発事業を手がけているIT関連の会社があり、おもしろそうだなと思って面接に行きました。以降12年間、現在勤めている会社に転職するまでその会社で働いていました」と仕事の縁を麻雀が結んだ。
プロ入りへの経緯は?
2005年、30歳の時に最高位戦日本プロ麻雀協会に入会した。「麻雀店で一緒に働いていた友達も同時期に就職することになったこともあり、まったく麻雀をしなくなるのはもったいないので、どこかのプロ団体に入ってみようかと、プロテストの日程が一番近かった最高位戦日本プロ麻雀協会に入会しました。会社勤めしながら、たまに麻雀店に行くぐらいならプロ入りしようというぐらいの軽い気持ちでした。今は増えましたが、当時はまだ会社勤めと麻雀プロ活動を並行している人は少なかったですね。プロ入りから2年ほど経った頃、プロ活動にも真剣に取り組もうと園田(園田賢プロ/赤坂ドリブンズ)らに声をかけて勉強会の場を作りました」
麻雀に集中できる環境を得るために転職
2007年にニコニコ生放送が始まって以降、麻雀プロ団体の対局は、対局会場で観戦する時代から、映像で観る時代へ進化していった。「最高位戦のリーグ戦が動画配信されるようになり始めてから、プロ活動との両立は厳しいなと思うようになっていました。会社の社長にはプロ活動のことを伝えていたのですが、社員には言わずに活動していたからです。当時は営業メンバーをまとめる役割を担当していたので、プロ活動をするときは、本名から母親の旧姓“醍醐”を苗字とした名前で活動することにしました。そうこうしているうちに最高位戦Aリーグの対局がABEMAでも放映されることが決まり、これまでの視聴者数の何十倍も見られる環境になったので、社長と妻にも相談し、麻雀で生活していくのもいいかなと決断しました」と麻雀に集中しやすい現在勤めている会社に転職した。
会社で取り組んでいる麻雀事業の内容とは?
醍醐プロが勤めている株式会社PPP’s(スリーピース)には「HQ(HighQuality)麻雀」という麻雀事業部門がある。「スリーピースはシステム系の会社なんですが、新たな部門として麻雀事業を立ち上げました。麻雀のやり方を教える麻雀教室は数多くあるので、麻雀で勝つためのロジックを教えますというコンセプトでレッスンを始めました。手組み、押し引き、読みといったテーマごとにテキストを作り、最初はひとりでやっていましたが、ある程度の需要があることがわかったので、人を増やして今に至っています」とレッスンだけではなく、大会イベントなども手がけている。
Mリーグが創設されてからどう見ていましたか?
「すごいことが始まったなという印象でしたが、Mリーガーになりたいとは思っていませんでした。なぜなら今の会社に転職する前だったので、もしもドラフト指名されたら、会社勤めを辞めなくてはならないと思っていたからです」
セガサミーフェニックスにはどういう印象を持たれていましたか?
Mリーグ創設時、セガサミーフェニックスは魚谷侑未プロ、近藤誠一プロ、茅森早香プロの3人編成で旗揚げした。「当時も今も最高位戦では圧倒的に支持されている同じリーグに所属している近藤誠一さんをプロとしての理想像として見ていました。誠一さんはファンの方との距離感や麻雀の見せ方で成立しているイメージがあり、私にはそういう要素がないので、尊敬というか、憧れの存在なんですよね」
2023-24シーズンからチームを牽引することになった近藤誠一監督の初仕事は、醍醐プロのドラフト指名だった。「ドラフト前に誠一さんとセガサミーフェニックスの運営の方とお会いする場がありました。最初は本当かなと半信半疑でしたが、すでに私のイラストが入ったチームの絵葉書を見せてもらい、チームの本気度が伝わってきました」
Mリーグに参戦してみて感じていることは?
醍醐プロのMリーグ初トップは、初出場から11試合目。個人スコアは全36選手中、最下位まで落ち込んだ末の勝利だった。「麻雀の打ち方に関していろいろ言われるのは気にならないいんですが、チームの足を引っ張るのだけは嫌でしたね。トップは取ろうと思って取れるものじゃないけれど、早くなんとかしなければと思っていました」
一部の麻雀ファンからの心無い言葉が耳に入ることもあった。「最初は自分の選択には必ず意味があるので、その意味を考えてくれよと思っていたんですが、戦っていく中でそれは無理だとわかりました。引き続き対局内容についてはYouTubeなどで発信していこうとは思っていますが、わかってもらうことは不可能なので、割り切ったという感じです。麻雀に関する話し合いってタイプが異なるので、合わないところは合わないものなので、勉強会などでぶつかるのは良いけど、何を言われても自分で積み重ねて考えてきて、計算して出した結論は変わりようがないんですよね」
2023-24シーズン、セガサミーフェニックスは魚谷プロ、茅森プロ、東城りおプロ、醍醐プロという4人体制でのぞんでいる。「お互いを尊重し合うチームなので、私にとっては居心地の良いチームだと感じています。ドラフト以降、実際にファンの方とも接する機会が何度かありましたが、誠一さんの対局に感動してセガサミーフェニックスのファンになりましたとか、観る雀から麻雀を始めましたといった方が本当に多いことに気付かされました。そもそもセガサミーフェニックスは『感動体験を創造し続ける』が会社のスローガンであり、誠一さんは実際それを意識し、体現してきた人なので、誠一さんぐらいに感動体験を創造し続けるのは難しいけれど、何かしら残せたらとは思っています」
醍醐プロの麻雀の特徴をひとことで言うと?
「タイプで言えば、観る人をドキドキさせられるようなタイプではない普通の麻雀だと思います。いらない牌をなんでも切るわけでもないですし、何でもかんでもアガリにいくタイプでもないですし。親番も続けられるものなら続けたいですけど、無理に損してまで続けようという感覚もありません。トップを取るための戦略としてはありなので、そのために他にできることがあった場合は、簡単に手放します。親を続けたいからなんでもやるというのは自分勝手なエゴで、親を続けられるかどうかは、配牌と積まれている牌の組み合わせが決めることなんで、私自身そこにこだわるのは基本的にはダメだと思っています。思いが強ければツモが良くなるということであれば強い思いを抱きますが、麻雀はゲームなので、気合いや思いもあまり持たないほうがいい。それでもなんとなく勝っているタイプだとは思うんで、麻雀が好きな人であれば、打牌の理由を考えながら見てもらえたら、頭が活性化されて麻雀がより楽しくなってもらえるんじゃないかなと思っています」
普段のリラックス方法は?
元ラガーマンだったこともあり、Mリーガーの中でも屈強なイメージを持つ。「リラックス方法はサウナですね。いつも行っているところでは、ツラいと感じたら出ることを3回ほど繰り返し、アガってから少し仮眠をとっています。ただ対局直前にサウナに行くと頭がぼーっとしてしまうので、対局前日に行って睡眠をしっかり取ることは意識しています」
「ちなみに誠一さんとも一緒にサウナに行ったこともありますが、誠一さんは基本的にお風呂好きでサウナはあんまり好きじゃないんですよね。私は逆でお風呂はそんなに好きじゃないサウナ好き。なのでサウナはあまり誰かと一緒に行くものではない気がしますね。今度松本くん(松本吉弘/渋谷ABEMAS)と一緒に行こうという話にはなってるんですけど(笑)」
醍醐プロにとって麻雀の魅力とは?
「普段の生活の中では頭を使って何かをひねり出すという機会はあまりありませんが、麻雀はそれを与えてくれます。この手牌のどこをどうしたほうが実際にはいいのだろうか。結果は出ますが、結果を見て成功だったとか失敗だったとそんな単純なものではなく、実際の答えは計算したりシミュレーションして出すべきものです。将棋もそうですが、ゲームではそうやって頭を使うことは大事だと思います。麻雀はそれがひときわ難しいので、何年やってもわからないことがあるというのが最大の魅力ですね」
◆写真:河下太郎、インタビュー構成:福山純生(雀聖アワー)
醍醐大(だいご・ひろし)プロフィール
1976年4月21日、千葉県松戸市生まれ。O型。最高位戦日本プロ麻雀協会、セガサミーフェニックス所属。主な獲得タイトルは第23回BIG1カップ。第45期最高位。趣味はサウナ、将棋。好きな映画は『いまを生きる』。YouTubeチャンネル「醍醐大冒険」好評配信中
▼醍醐大冒険はこちら
年 | 年齢 | 主な出来事 |
---|---|---|
1976 | 0歳 | 千葉県松戸市に生まれ |
1991 | 15歳 | 慶應義塾中等部入学。ラグビー部に入部 |
1994 | 18歳 | 慶應義塾大学経済学部入学 |
2000 | 24歳 | 慶應義塾大学を中退し、麻雀店で働き始める |
2005 | 30歳 | IT企業に入社。最高位戦日本プロ麻雀協会入会 |
2019 | 43歳 | IT企業の営業部門役員を退任し、株式会社PPP’s入社 麻雀事業『HQ麻雀』スタート |
2020 | 44歳 | 第23回BIG1カップ優勝。第45期最高位 |
2023 | 47歳 | セガサミーフェニックスよりドラフト指名 |