「人生は道路のようなものだ。一番の近道は、たいてい一番悪い道だ。」
と言ったのは、画家のフランシス・ベーコンだった。名前だけ見るとフランス人みたいだけど、アイルランド生まれのイギリス人。
麻雀において「一番悪い近道」と形容したくなるのは、3翻下がるあせった仕掛けなどが思い浮かぶ。しかし、シンデレラファイトDAY9ラウンド16において、そんなものはついぞ見られなかった。
ああ、それにしても。
渾身のテンパイをした時の待ち牌が、山になかった時のショックたるや。
自分の待ち牌が山に何枚あるか、そんなことが分かる特殊能力がほしい。
♯1南1局で小西雅が放ったこのリーチが敗着になったと知った今、筆者はもう麻雀の何を信じていいのか分からない。リーチ・ツモ・ピンフ・一気通貫に一発や裏ドラを1つ乗せて6000オールになるのが麻雀ではないのか。おい麻雀、そこんとこどうなんだよ。
筆者を含めた視聴者はいわゆる「神目線」を持っている。それを使って、小西のリーチの待ち牌を見てみよう。
まずは小西の下家・梶田琴理の手牌の中に3枚。高めのが2枚あってうらめしい。
次に50000点オーバーを誇る木下遥の手牌に1枚。木下はドラ3の8000点が確定している勝負手であるものの、2着目を30000点以上離したダントツであるため、小西の親リーには立ち向かわない。
そして上家の川上レイの手牌に1枚組みこまれていたところ、ツモでの三面張ができた。そしてが1枚減った。
小西1+梶田3+木下1+川上2=7
小西の両面待ちは8枚だから、残りは8-7=1枚しかない。
そして、最後の1枚も木下にしっかり吸収されたところで、
満を持して、川上から三面張リーチが飛んでくる。
(ダメだ…。もう見てられないよ…。)
というタイミングで、小西のもとに川上へ8000点放銃となる。
微差で競っている中、親からのリーチに対して勇気をもって無筋を勝負し、追いかけリーチを打った川上が素晴らしいのは言うまでもないことだが、それにしても麻雀の神様は小西に対して冷たすぎやしないか。
木下はオーラスも自ら前に出た上でアガり切って、準決勝進出1番乗りを決めた。グループリーグでは、牌勢が悪い時の麻雀も見せてもらったが、悪い時も粘って最後は一撃を決める。いい時は常にアガりをもぎとって、2着以下に影も踏ませない。木下遥はもう手がつけられない。
ホテルに帰ってきて喜びを噛み締めてます☺️応援してくれて本当にありがとうございます!!
— 木下 遥【8/19シンデレラファイト】 (@ha_k3) August 4, 2023
優勝まで見届けてください?
セミファイナルの衣装は何が良いと思いますか??もうネタがありませんので募集します。むしろ着てほしいやつ送ってください。笑#シンデレラファイトシーズン2 pic.twitter.com/UY5F9c4efk
筆者もすべてのTwitterをくまなく見ているわけではないが、このシンデレラファイトシーズン2において、明確に「優勝します」と宣言しているのは木下だけなのではないか。麻雀はもちろん、木下のメンタルも気になるところだ。
♯2は、最高位戦の先輩・後輩対決となった。
実績十分、プロ7年目でラストイヤーとなる先輩・相川まりえと、
プロ2年目の新鋭、後輩・新榮有理。あとで知ったのだが、この2人は今行われている夕刊フジ杯では、チームメイトでもあるのだとか。
この2人が激しくぶつかったのは、南2局0本場のことだった。
まずは、相川が先手を取る。場風でドラのを仕掛けると直後にすぐテンパイ。でラス回避に全力を尽くす。
しかし、新榮も指をくわえて見てはいない。両面のチーから発進すると、のターツを払って一気にピンズに寄せ、相川がツモ切ったにロンの声をかけた。
新榮にとってはトップでの準決勝進出に向けて、相川にとってはラスでのラウンド16脱落目前の、大きな大きな8000点だった。
放銃した瞬間や、脱落が決まった時の顔を切り取るのは良心がとがめるけれど、対局後の反省会で、笑顔の相川に会えるYouTubeチャンネルがあると知った。その名も【えってぃちゃんねる】。まりえってぃを推していこうと決めたなら、まずはチャンネル登録から始めてみよう。
♯3の対戦カードは、いつもの画像で確認する。
♯1からは川上レイと梶田琴理が、♯2からは成海有紗と羽月が、それぞれ連対条件を満たすべく卓についた。
南4局0本場
東家・川上レイ13400
南家・梶田琴理34500
西家・羽月15900
北家・成海有紗36200
冒頭で、待ち牌が山にないテンパイをしたシンデレラが手痛い放銃をしたシーンを取り上げたが、実はこの♯3オーラスも、先制テンパイの待ち牌が山になかった。
トップ目の成海は、この日はチートイツが上手くハマった。河をよく見て重なりやすそうな牌を見つけ出し、打点が必要な時はドラで待ち、そうでない時は待ちごろの牌を選ぶ。♯2での3000/6000は特に秀逸だったので、ここで合わせて紹介しておこう。
♯2オーラスでは新榮に逆転の2000/4000を決められてしまったものの、この日の成海は選択がビシバシ当たり、♯2・♯3通して常に余裕を持った局回しをしていた。
で、上で紹介した成海のタンキだが、実は場に1枚切れた他はずっと西家の羽月がトイツで抱えていた。
つまり山にはまったくなかったわけだ。しかし、これが出てくる魔法の呪文があって・・・
それがこの、親番川上からの「リーチ。」ちなみに待ちは両面のだ。
川上の河を見ると1枚切れのが当たるようには到底見えず、また自身の手もタンヤオになるツモを引き入れた羽月は・・・
をトイツ落としし、成海に放銃となってしまった。川上も羽月も、後がないオーラスを全力で戦った結果、お互いがお互いの足を引っ張ることになってしまった。そして、漁夫の利を得た成海。展開が向いた。
準決勝進出者は、♯1トップの木下遥、♯2トップの新榮有理、♯3トップの成海有紗と同2着の梶田琴理の4名となった。
勝ったシンデレラは強い。そこに異論を差しはさむ余地はないとしても、さりとて負けたシンデレラが弱いとも思えない。悪いと分かっていても近い道を行けばいいのか、じっくりと遠回りしていい道を見極めればいいのか。あと1牌の場所が違ったり、展開がちょっと異なるだけで、麻雀はまったく違う顔を見せてくるのだから。