- 『ネマタの戦術本レビュー』は、麻雀戦術サイト「現代麻雀技術論」の著者・ネマタさんによる戦術本レビューです。
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当レビューは書籍の内容に関するネマタ氏が当書の回答に異論があるもの、追記事項があるもの、または更に掘り下げたい部分等を取り上げます。姿牌、局面については書籍を購入してご確認下さい。
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第1章 強くなること
2.誤ったAI観から脱却せよ
本格的な麻雀AIの走りと言えるのが、2006年にリリースされた「まったり麻雀」。天鳳六段の作者が勝ち越せなかったほどの実力で、私自身打っていてその強さに驚かされたものですが、打ち筋は先制主義、テンパイ即リーチ、先制できなければ即ベタオリ。本書で言うところの「古臭いデジタル観」を連想させるものでした。
まったり麻雀にはデュプリケート対局機能があり、AIと打ち筋を比較することができます。どうすればこのAIより優れた結果を残せるかを考えた末、本書で言うところの、「スリム化」「打点狙い」に行き着くことができました。簡単な領域を迅速かつ正確に処理できるだけでも麻雀は強くなれる。しかしそれだけでは不十分で、更に強くなりたければ飽くなき細分化、正確性を追求していく必要がある。本アプリとの出会いが「現代麻雀技術論」を著す契機になったと言っても過言ではないかもしれません。
それから10年後、麻雀AIは更に強くなり、2017年には「爆打」が天鳳九段達成。爆打の打ち筋を元にした戦術本も出版されました。「AIならば計算で処理できる局面であれば、既に人類最強を超えたかもしれない」、当時の私はこのような感想を抱きました。全くの的外れでもないとは思いますが、まだ「古臭いAI観」に囚われていたという事実も否めません。
Suphxの登場は、私自身が抱えていたAI観がいかに古臭いものであったかを気付かせるに十分過ぎる出来事でした。「機械っぽくない」ではなく、むしろ「機械的すぎる」。まさに本書で指摘されている通りでありましょう。あと数年もすれば、人類最強を乗り越えていくと確信させられます。将棋AIがそうであったように、麻雀もAIから学ぶことで人類もより高みに登り詰めることが出来るようになるに違いありません。
「打牌が同じになってつまらない」。このような感想を抱く人が少なくないのは、AI観だけでなく麻雀観にも原因がありそうです。
確かに将棋のような完全公開情報ゲームに関しては、AIの急速な進歩によって、それまで見られたような個性的な戦法や囲いがプロ棋士の将棋で登場することがすっかり減りました。終盤の「詰むや詰まざるや」を問う白熱した局面も、AIが簡単に答えを示してしまったのでは興が削がれてしまいます。将棋AIが没個性的かと言われれば決してそのようなことはないのですが、「指し手が同じになってつまらなくなった」という印象を少なからず受けます。
一方、麻雀は不確定非完全情報ゲーム。同じ基準で打牌を決めたとしても、ツモと他家の打牌次第で打牌はいくらでも変わりますし、打牌が変われば当然ゲーム展開も変わります。むしろ細分化、正確性を突き詰めれば突き詰めていくほど、打牌選択に迷うことも増えました。麻雀AIの進化で、麻雀がますます楽しくなる。そんな時代がすぐそこまで来ています。
世界最強麻雀AI Suphxの衝撃
世界最強の麻雀AIを人間のトッププレイヤーが本格解説!
2019年6月、麻雀AIで初めて天鳳十段に到達し話題をさらった「Suphx」(スーパーフェニックス)。
天下のMicrosoft社が麻雀という不完全情報ゲームに殴り込みをかけてきたのです。「Suphx」の強さはもはや人間のトップレベルに達しており、他のボードゲームがそうであるように、麻雀も「AIから学ぶ」時代に突入しつつあります。
本書はその端緒となるもので、最強のAIである「Suphx」を人間界のトップといえる天鳳位を獲得したお知らせ氏が徹底的に解説するのものです。
お知らせ氏の筆致は処女作である『鬼打ち天鳳位の麻雀メカニズム』で証明されたように緻密にして正確無比。「Suphx」の打牌を咀嚼し、人間の知として昇華する上でこれ以上の適任はいないでしょう。
ぜひ本書で「Suphx」の強さの秘密と、麻雀というゲームの深淵を味わってください。
●目次
第1章 強くなること
第2章 スタンダードな押し引き
第3章 中盤のスリム化
第4章 序盤の方針
●著者プロフィール
1989年9月18日生まれ。
神奈川県横浜市出身。東京大学工学部卒。
第14代四麻天鳳位。
著書 「鬼打ち天鳳位の麻雀メカニズム」(マイナビ出版)
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