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卓上でヨシ!麻雀暗記ノート 第67回 あえて他家に振り込む場面(差し込み) 上

卓上でヨシ!麻雀暗記ノート 第67回 あえて他家に振り込む場面(差し込み) 上

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最近は守りの話題、なるべく振り込まないための方法を紹介してきましたが、今回は全く逆で、あえて振り込む方法を解説します。
このことを、普通の振り込みと区別して、「差し込み」と呼ぶことも多いです。

初めて聞くと、「わざと振り込む場面があるの?」「そういう作戦が許されるの?」と驚く方もいます。
確かに、2人で戦うゲームなら、わざわざ敵を有利にするような場面は普通はないですよね。
またスポーツの世界では、利敵行為は八百長と受け止められかねず、あまり印象がよくありません。

ただ麻雀では、差し込んだ方がよいシーンは、確実にあります。

具体例をみてみましょう。
画像は、2022年4月1日のMリーグセミファイナリスリーズ第1試合のオーラス、南4局です。
西家の勝又健志選手は27800点持ちの2着目です。
トップの近藤誠一選手(44400点)とは、16600点差。

近藤選手をまくってトップになるには
・倍満以上をツモる
・近藤選手から跳満以上を直撃する
・近藤選手以外から三倍満以上をアガる
のいずれかが必要です。
(オーラスの逆転条件の計算は、第10回 オーラスで逆転できるか知るシンプルな法則 をご覧ください)

自分の手は、ドラの[3]が1枚あるものの、タンヤオや純チャンは目指しにくく、このまま進めるとリーチ・ツモ・ピンフ・ドラをベースに、一発や裏ドラ期待になりそうです。上記の条件を満たすには、ちょっと厳しそうですね。

一方で、3着の朝倉康心選手とは1万点差。満貫をツモられると同点になりますし、朝倉選手に5200点以上を振り込むと逆転されてしまいます。

そして、ラス目の親、滝沢和典選手にアガられるのも、全く嬉しくありません。
親がアガると点差が縮みますし、連荘で親が続きます。4000オールや6000オールをツモられると、一気に着順落ちのピンチです。

Mリーグの順位点は、1着が+50000点、2着が+10000点、3着が-10000点、4着が-30000点相当です。
2着から3着に落ちると20000点、親の跳満や子の倍満を上回る失点になります。

普段は、3900点の手が何とか満貫(8000点)にならないか、などと数千点単位の加点を必死に考えているのに、うっかり順位が1つ下がると、比べものにならない損失を被ります。

さらにいえば、親の滝沢選手に放銃して4着になると、順位点だけで40000点、子の役満を超える失点です。何としても避けたいですね。

この状況で勝又選手が考えることは
・自分がアガって半荘が終わればもちろん文句なし。
・ただ、トップになるのは難しそうで、2着のままだと順位点は変わらない。
・とすると、近藤選手にアガってもらって半荘が終わるのもまずまず良い。

3着との差は1万点あるので、近藤選手に満貫を振り込んでも、2着のまま終われます。
8000点を失うことは痛いのですが、順位が下がって20000点や40000点を失うよりはマシですね。

幸い、近藤選手が自風の[北]をポンしてアガリに向かっています。
であれば、近藤選手が欲しそうな牌を切っていけば良さそうです。
真ん中の牌を次々に切っていき、狙い通り、[四]でロンと言ってもらえました。

このとき、勝又選手と近藤選手の間には、一種の同盟関係が生じています。
対局中、選手同士は言葉はかわせませんが、2人で「このままトップと2着で仲良くゴールしましょう!」と会話しているような感じです。

近藤選手の手は[北]のみ。勝又選手は、最少失点の1000点で2着をキープできたので、御の字といえるでしょう。
これが、典型的な差し込みです。

逆に、親の滝沢選手の立場に立つと、これをやられると大変苦しいですね。
劣勢で迎え、逆転を目指すぞ!と意気込んだ最後の親で、手が整う前にあっさり半荘が終わってしまうので、なすすべがありません。
4人のゲームで、うち2人に結託されると、対抗するのはとても難しくなってしまうのです。

狙い澄ました差し込みは時に美しく、名場面になります。

試しに、Youtubeで「麻雀 差し込み」で検索してみると、多くの映像が見つかります。
なかには、2着順落ちを防ぐため、あえて1着順落ちになる差し込みを行うようなシーンもあります。
「最悪の結果」を避けるために、「悪い結果」を受け入れる、ぎりぎりの判断ですね。
いずれも、勝負の奥深さを感じさせてくれる映像ばかりです。

投資や経営の世界では、「損切り」という考え方があります。
例えば、購入した株式が値下がりし、回復が見込めないとき、売却して損失を確定させることをいいます。
だらだらと損失を拡大させないためには、損切りの判断が重要とされています。

差し込みは、放銃して一定の失点を確定させ、将来の大きな失点(順位点の低下)を防ぐ手段なので、損切りの感覚と似ているかもしれません。

次回紹介するように、差し込むにはいろいろな検討が必要で、いきなり使いこなすのは簡単ではないでしょう。
ただ、このような戦術があることを知っておくと、作戦の引き出しが増えると思います。

次回は、差し込み時に気をつけることと、差し込まれやすくする方法を紹介します。

この記事のライター

藤田 明人
最高位戦日本プロ麻雀協会第43期後期(2018年入会)
兵庫県出身。東京大学法学部卒業後、新聞社に入社。
記者を経て、教育事業部門で勤務。
麻雀が、幅広い世代の学びにつながることを研究しています。

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