ノーレート雀荘の経営者となって感じたことは?
「オクタゴンを始めてからは、それはもう大変な日々でした。お金をかけないノーレートという旗を掲げてはみたものの、その形態でやる以上、お金以外の要素でお客さんに楽しんでもらえるようなシステムを構築しなければならない。いろんなシステムを試したり、微調整したり、様々なイベントを企画したり、毎日必死で模索してきました」
「しかし、そもそもノーレートとというか、現在の風営法を遵守した形での営業形態は成立しないのではないかと思えるくらい、経営的には苦しい状態です。事実、開店してから黒字になった事は一度もないんじゃないかな? 僕自身に利益というものが出た事はもちろん無く、それどころかウン百万円の私財も投入してます。藤田社長(株式会社サイバーエージェント代表取締役社長)のサポートが無ければ、とっくの昔に潰れていたと思います。自分に利益が出るわけでもなく、声優の仕事が終わった後や休日に店に顔出したりで、プライベートな時間がほぼ無い現状、正直三日にいっぺんくらいは、店畳んだらどんなに楽だろうかと考えてます(笑)」
そこまでして経営にこだわる理由は?
「麻雀が大好きだという事ももちろんありますが、従業員やゲストに入って頂く方達の働く場を失わせたくないという事もあるし、何よりオクタゴンという店を気に入ってくださっているお客さん達の“競技場”であり“遊び場”を守りたいという気持ちが大きいですかね」
「ただまあ、それも限界があります。いつまでも藤田社長にご迷惑をおかけするわけにもいかないし、もしかしたら来年あたりに何らかの決断をせねばならないかもしれません。今年いっぱいは何があっても続けるつもりですが、来年以降なるべく長く続けるためにはお客さん、といいますか、この店の“サポーター”になってくださる人を増やすしかありません。そのためには、さらなる面白い企画、接客の面を始めとした居心地の良い店作りを、より徹底して進めていかねばなりません」
「やるだけのことをやってそれでも駄目だった場合は、“商売”という面から見れば当たり前の事ですが、潔く辞めるしかないでしょうけどね」
お客様層の傾向とお店のウリは?
「ノーレート雀荘に足を運ぶお客さんの層は、大きく二つに分けると、成績を競い合うことに凄くやりがいを感じる競技麻雀ガチ勢と、麻雀を始めたばかりの初心者勢の二層といえるかもしれません。ただ、この二つの層の融合がまた難しい。初心者勢は普通にフリー卓に入ること自体が相当ハードルが高いことだし、ガチ勢はやはりガチ勢同士での対局を好む傾向にあります」
「共存は至難の業であるからといって、どっちかに舵を振り切るわけにもいきません。『毎日が最強戦予選!!』というコンセプトでやっている以上、ガチ勢にとっての競技場であるのはもちろんですが、麻雀業界という大きな枠組みで考えた場合、麻雀人口を増やすこともまた大きなテーマです。そのためにオクタゴンでは、様々な取り組みを行ってきました」
「2016年11月にスタートした《おとなの麻雀スクール》を始め《てんすうけいさん講座》、初心者大歓迎の講義付き大会《ビギナーズカップ》への参加者も、コンスタントに増えてきました。さらに2017年10月から多井隆晴プロ(RMU)による《たかはる塾》も開講し、麻雀人口の裾野を広げるさらなるきっかけとなっております」
「かつては初心者勢だった人達がこういう場に参加し、フリーデビューし、ガチ勢達との勝負でいろんなことを学びながら、やがて互角の戦いを繰り広げる。これこそオクタゴンの理想というか、オクタゴンという雀荘が存在する意義だと思っております」
「そもそも、オクタゴンのゲスト陣は日本一豪華な布陣と言っていいくらい、沢山の著名プロ、著名人がゲストに来てくれています。スクールだったりゲストだったり、きっかけは何でもいいので、麻雀をする人にとって“特別な場”となることを突き詰めていくことが、オクタゴンを守ることに繋がっていくと思います」
好きなことを仕事にするためには?
「一歩踏み出すこと。心の中で思い描くことは誰にでもできます。一歩踏み出せるかどうかがすべてです。思い立ったときに動き始めないと、夢は夢で終わってしまいます。いつかやりたいと言っても、動き出さないことには何も始まりません。形にするためにはリスクは付き物ですが、イメージとして自分の中に生まれたものは、とりあえずやってみる。やってみて失敗だったとしても、そこで得た発想が次につながれば、それは失敗ではないわけです」
「そして思い描いたことを誰かに話すこと。自分ひとりで出来ることなんてたかが知れてます。話すことは巻き込んでいくことでもあるわけです。そうすると、その人との会話の中から何かしらの形が生まれます。そのためには許容も必要です。絶対譲れませんと主張することも大事かもしれませんが、100%合致することはまずありません。いろんな人と関わっていく中では妥協したり、それいいねって素直に受け入れられる柔軟さも不可欠です。全部自分でやるのではなく、お任せしますって感覚も必要だと思います」
小山さんにとって麻雀とは?
「麻雀最強戦のMC、雀荘経営。麻雀は仕事の一部でもあるので、趣味を超えた存在と言えます。個人レベルを超えた領域で関わっている以上、麻雀業界をより良いものにしていきたい。これだけ好きなんだから、もっと貢献したい。幸いなことに昨今は対局番組も飛躍的に増え、TVアニメや実写ドラマにもなった漫画『咲-Saki-』から興味を持ってやり始めた若い人達もいます」
「その受け皿となれるよう、オクタゴンでしかできないイベントをどんどん発信していきたいと思います。もちろん、自分も時間の許す限り、オクタゴンで麻雀打ってます。ぜひ一緒に麻雀しましょう! オクタゴンが無くならないうちに!(笑)」
インタビューを終えて
麻雀人口は2009年の1,350万人をピークに、2016年には500万人と減少(出典:レジャー白書2017)。雀荘店舗数(2017年)は、8,736店舗で前年比440店舗減。廃業届を出していない店舗数も含まれているため、実際に営業している雀荘は、もっと少ないことが予想される(出典:警察庁生活安全局保安課「風俗営業の営業所数の推移」)。中でもノーレート雀荘の経営は本当に厳しいのが現状だ。
しかし小山さんは「誰もが楽しめるディズニーランドのようなお店にしたい」と、少年のような瞳で未来を語る。あっという間に共鳴者にしてしまうマンパワーと麻雀に対する限りない愛情。
経営者としての苦しみを、赤裸々に吐露してくれたのは「なんとか現状を打破したい」とあがき、もがく、麻雀に魅入られた男の叫びに他ならない。
インタビュー・文責:福山純生(雀聖アワー) 写真:河下太郎(麻雀ウオッチ)
◎小山剛志公式ツイッター
https://twitter.com/_higetter_
◎麻雀オクタゴンオフィシャルサイト
https://www.mj-octagon.jp
◎アクロスエンタテインメントオフィシャルサイト
http://across-ent.com/about/
マージャンで生きる人たち back number
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あらゆる挑戦は、すべて〝妄想〟から始まる - 第2回 株式会社F・R・C代表取締役 香宗我部真
"作業"が"仕事"に変わった先にあるもの - 第3回 ターナージャパン株式会社 制作部 プロデューサー 上島大右
好きなことを仕事にしようと考えるより、自分の仕事を好きになる努力するほうがいい - 第4回 フリーアナウンサー 土屋和彦
しゃべるのが仕事。しゃべることを取材することも仕事 - 第5回 株式会社セガ・インタラクティブ セガNET麻雀MJディレクター 高畑大輔
「マージャンのおかげでキレなくなりました(笑)」 - 第6回 RTD株式会社 代表取締役 張敏賢
「目指すは、新しいマージャン文化の創造」 - 第7回 漫画家 片山まさゆき
「盆面〈ぼんづら〉がいい人生。仕事も麻雀も。そうありたい」 - 第8回 株式会社アルバン 専務取締役 船越千幸
「奪い合うのではなく、増えるきっかけを生み出す」 - 第9回 健康麻将ガラパゴス創業者 田嶋智裕
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「躊躇なく一気にやることで、世界は開ける」 - 第12回 麻雀キャスター 小林未沙
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