2003年、映画『自殺マニュアル2-中級編-』で監督デビュー。以降、幅広いジャンルで作品を発表し続けている映画監督・小沼雄一さん。麻雀映画だけでも『麻雀飛龍伝説 天牌-TENPAI-無間地獄脱出編』をはじめ『東大を出たけれど 麻雀に憑かれた男』『真・兎 野生の闘牌』『凍牌〈劇場版〉』『咲-Saki-』『咲-Saki-阿知賀編 episode of side-A』と数多くの作品でメガホンを取っている。小沼監督に、麻雀映画への想いと仕事論を聞いた。
小沼雄一(おぬま・ゆういち)プロフィール
1965年、茨城県生まれ。射手座。法政大学経営学部、日本映画大学卒。映画監督。好きな役はメンタンピン。
麻雀を覚えたのは?
「高校時代に友達と始めたのがきっかけです。大学時代は手積みでやっていました。卒業後はさほどやっていなかったんですが、この業界で働き始めたら麻雀好きのスタッフがけっこういたんです。そうすると撮影が終わると麻雀になるわけで、助監督時代は、よくやっていましたね。監督になってからは、誘われることはなかなかありませんが(笑)」
なぜ映画監督に?
「大学時代は映像業界に入ろうとは思ってもいませんでした。田舎の人間なので、映画を職業にするなんて発想はなかったんです。経営学部に在籍していましたが、麻雀をやりすぎて留年。卒業するまでに6年かかりました(笑)。卒業後は実家のガソリンスタンドで働いていました。そんなある日、映画雑誌を読んでいたら映画学校の広告が載っていて、映画の仕事を目指せる道があることを知ったのです。直感で一念発起し、日本映画大学に入学。29歳で卒業してすぐ現場に入りました」
最初に手がけた麻雀映画は?
「2011年公開の『麻雀飛龍伝説 天牌-TENPAI-無間地獄脱出編』が最初です。実は私が業界に入った90年代は〈麻雀シーンは退屈だ〉というのが“映像業界の常識”とされていました。『麻雀放浪記』といった麻雀映画の名作は何本もありますが、基本的には麻雀を知らない人にも見てもらいたいわけです。だからドラマシーンよりも麻雀シーンが多くなってしまうのはご法度。それでは多くの人に見てもらえないという認識があったからです」
「ところが21世紀に入ってから、麻雀シーンだけで構成された漫画が増え始めたんです。漫画『凍牌 裏レート麻雀闘牌録』もしかりで、麻雀の中の仕掛けで面白がらせる作品が多くなっていきました。さらにVシネマの視聴者評価を見てみても、どうも麻雀シーンを中心に見ているようだと気づいたんです」
「そこで監督になってから“映像業界の常識”を打ち破ることを決断しました。私自身、これまでの方針を転換し、麻雀シーンを増やしていく構成で作品を作っていったのです」
『咲-Saki-』実写化で意識されたことは?
「原作があるものを実写化する場合は、風当たりが強い面もあります。原作を変えると原作ファンはがっかりします。アニメ化が先行しているケースでは、声優さんのイメージが壊れるのでやめろ、汚されるといった風潮もあります。ただ萌え系作品を実写化する際、よく原作が改変されるのは、二次元ではおもしろかったけれど、三次元ではおもしろくなくなってしまう作品もあるからです。それに変えたほうが撮影効率もよくなり、低予算で抑えられることも理由のひとつです」
「『咲-Saki-』は人気漫画でかつアニメ化が先行していたので、実写化にあたってはどうしたらいいのか、懸命に考えました。そして“原作通りに撮影する”というスタンスに行き着いたのです。それは映画『凍牌〈劇場版〉』で漫画の世界観を原作通り忠実に実写化するのは大変だけれども、そのハードルを越えると、原作の面白さが出てくることを実感していたからです」
「ただ忠実に実写化するためには、最大の難関があります。それはプロデューサーを説得することです。原作に忠実なストーリー構成に加え、カット数の多い麻雀シーンがメイン。そんな大変なことをやったら赤字になる、失敗したらどうするんだとなるわけです。したがってなぜ変えない方がいいのか。その具体的な方法論やノウハウをわかりやすく説明できないと、納得してもらえません」
キャストのみなさんはどのように麻雀を覚えたのですか?
「闘牌指導に関しては、麻雀プロの方達にフォームをはじめ、細かい部分も指導してもらいました。さらにキャストたちには麻雀牌を何枚か持ち帰ってもらい、ひたすら模打の練習を自主トレしてもらいました。このやり方は映画『真・兎 野生の闘牌』で麻雀未経験者の若い子ばかりのキャストで挑んだ経験が生きました。それまでは麻雀経験の有無もキャスティングの基準にしていましたが、若い人達は未経験であっても教えたら必ず出来ることがわかっていたのです。実際『咲-Saki-阿知賀編 episode of side-A』でも、覚えるのが最も早かったのは小学生でした。キャストたちの模打を見てもらえたら、相当練習したことは伝わると思います」
「もちろん手元だけを吹き替えで行う撮影方法もありますが、私の場合は麻雀シーンの一連の流れも途切れずに撮りたいので、顔も手元もすべてキャスト本人で撮影していくことを基本にしています」