第二章
11 むしろ、「先制悪形テンパイは何でもリーチでよいわけではない」というのが最近の風潮であるように思われます。
しかし、「先制リーチに対して、現物を切って悪形リーチドラ1」の追いかけリーチでさえ、ダマから危険牌引きで降りに比べて局収支では勝るのですから、それより明らかに条件がよい先制テンパイであれば、よほど待ちが悪いのでなければリーチを打つべきでしょう。
ただし、あくまで先制テンパイした時点ではリーチ有利というだけであり、テンパイ以前の段階で、悪形でもいいからなるべく早くテンパイを目指すべきなのかはまた別問題。「テンパイしたけどリーチには行きづらい」のであれば、そもそもテンパイ以前の段階で、よりアガリやすい、あるいはより高打点の手組を目指せなかったかに着目すべきであることが多いと私は考えます。
12 リーチのリスクとリターンを推し量る判断力が必要というのは確かにその通りですが、あくまで、「ダマやテンパイ外しと比較したうえで、リーチした方が有利かどうか」で判断すべきです。
リーチすると手牌が変えられないのがリスクというのであれば、役無しダマやテンパイ外しを選ぶことでアガリ逃してしまうのもまたリスク。
リーチのような能動的な選択のデメリットばかりが、「リスク」と表現されがちですが、どのような選択にもリスクはつきものです。
13 リーチに対する他家の挙動によって判断が変わることも考えられますが、正しく挙動を予測できても、それによってどのように打牌選択が変わるかという判断が本当に正しいのか注意する必要があります。
他家の挙動で判断が変わる例として、「ダマで満貫良形テンパイはリーチに他家が降りやすいならダマ」「安手悪形テンパイは押されやすいならダマ」とよく言われます。直感的に頷けるところではないでしょうか。しかし、こちらのシミュレートによると、何と結論はむしろ逆。前者はツモった時の打点上昇が大きいため、後者はテンパイに遠いところから押してくる他家がいるので放銃率以上にアガリ率が高まるためです。
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とは言え、この結論もあくまでシミュレーターの仮定通りの局面であるということが前提。前者はダマなら今にもこぼれそうな牌を止められてしまいそう、後者はすぐにでも追っかけリーチが入りそうというのであればダマ有利になることは十分考えられます。繰り返しになりますが、「ダマやテンパイ外しと比較したうえで、リーチした方が有利かどうか」をその場に応じて判断することが必要になります。
14 11で述べたような、より勝算が高い手でリーチするための具体例が取り上げられています。現代の価値観からはリーチ判断に疑問符がつく打ち手でも十分に結果を残している打ち手が少なからずいるのは、ここで取り上げられているような手組の技術が高かったためではないでしょうか。
15 自分の選択についてはメリットを、選ばない選択についてはデメリットばかりをついつい取り上げたくなりますが、実際は、自分の選ばない選択こそ贔屓目に見積もるべきです。
今回の場合は、仮に先制テンパイではないとしても、それでもまだリーチが不利にならないと判断すれば自信を持ってリーチすればいいですし、そうでないなら、他に取り得る選択肢はないかを改めて考えることで、より精度の高い打牌選択が可能になります。
本記事に関するご紹介
デジタル麻雀は少ない定理を用いて麻雀を一般化し、簡略化された戦術を生み出そうとするものですが、ASAPINの考えはむしろその逆。一般化を拒み、カオスに近い麻雀というゲームに真摯に対峙し、わずかな優劣の差を個々のケースに応じて見出そうとします。本書を読めば、現代麻雀の最高峰の姿、最も進んだ麻雀とはどういうものなのか、分かるはずです。