なぜ路上販売を行っているのですか?
「本を出版しても1冊売れて印税数十円という世界。よほど売れない限りはビジネスとしては成立しません。5000人を対象とした商業出版よりも、500人を対象とした自費出版の方が将来的に可能性があるんじゃないか。そんな風に思って、本の直接販売というビジネスモデルを構築を目指す準備でもあります。そして何よりも買ってくれる人と直接触れ合えるのが大きい。最近は麻雀でこんなことがあったとか、どこぞの雀荘がこんな状況なの知ってます?といった何気ない会話が面白いんです。10年ぶりぐらいに会いに来てくれる方もいて、小さなイベント感覚です」
この仕事を目指す人へのアドバイス
「今の時代は、麻雀に限らず他のジャンルでも、専門分野は”掛け算”になってきています。麻雀だと、たとえば漫画原作者の来賀友志さんは麻雀×漫画原作の専門家です。麻雀じゃない話のストーリーも作るわけです。小林未沙さんは、麻雀×声優ですね。ぼくの場合は麻雀×出版で、麻雀以外の本も書いたり編集したりします。つまり、何かの分野のプロになって、そのスキルと麻雀との掛け算ということです。だから、何かのプロになって麻雀の世界に来てほしい。もちろん専門分野によっては活用しにくいものもあるでしょうが、今までにない掛け算であることが大きな可能性だといえます。すでにある組み合わせだと、先人を超えるものを持っていないと認めてもらえず、ハードルがぐっと高くなります」
「その一方で、どの分野の仕事をするとしても掛け算が重要になるということは、過去の経験がすべて役に立つ可能性があることになります。若いときのわずかな経験が思いがけない形で役に立つことは、仕事人生が長い人なら誰しも感じたことがあるんじゃないでしょうか。いろいろな経験をしていることは芽を持っていることになり、その芽は将来伸びるかもしれません。芽をいっぱい持っていることは、有利なことになります。若い人は、弁護士になるには…みたいに、その仕事に入るまでしか考えない傾向がありますけど、その仕事に入ってからの方が長く、そのときにいろいろな経験がプラスとなります。勉強しかしてこなかった人は苦しくなりますね」

好きな言葉は?
「意志あるところに道は開ける。アメリカ合衆国第16代大統領、エイブラハム・リンカーンの言葉です」
福地さんにとって麻雀とは?
「正直、なんでこんなにやっているんだろうって不思議なんですよね。色紙に麻雀は60歳になってからと書いていた時期もあったんですが、麻雀ばっかりやっていると、楽しくてあっという間に時間が経ってしまいます。60歳からの健康麻雀ってホントいいと思うんですよ。麻雀は人生の縮図みたいな言葉はあまり好きじゃないんですが、人生の縮図みたいなところもある。麻雀の中にすべてがあるのかと言えば、そこまでは言えないけれども、そう思って人生を賭けることもあるような。すいません、とりとめのない話になっちゃって(笑)」
今後挑戦していきたいことは?
「今までなかった本を作りたいですね。これまでは売れそうな本ばかり意識してきましたけど、これからは売れそうな本プラス、あまり売れないと予測がついていても、これまでなかった本を作りたいと思います。たとえば三麻の本です。最近何冊か出つつありますけど、まだ内容的に十分とはいえません。あと国際公式ルールの戦術書はまったくないですね。それから自分の本の中国語訳や英語訳もやりたいことです。日本麻雀をする外国人は増えていますが、外国語で戦術を説明するコンテンツは皆無です。それから、麻雀のデータ的な研究と分析もまだ不足しています。何年かすると麻雀もAIから学ぶ時代が来るはずで、そうなったときにはデータをまとめた本はもう作られない時代に入るんじゃないかと危惧しています。その前に作っておかないと。なんにせよ、いっぱい売れなきゃいけないという制約さえ外してしまえば、作るべき本は無数にあります」

インタビューを終えて
本を制作する時、取材をする時、福地さんが意識しているテーマはシンプルだ。「実戦で勝つため」。一見、麻雀における膨大なデータは無味乾燥とした数値にすぎない。しかしその数値は、勝つための視点で分析され、世の中とリンクしたときに新たな息吹がもたらされる。諸葛孔明や真田幸村など軍師が好きとのことだったが、こういった軍師さながらの行程を経ているからこそ、紡ぎ出される文章は勝つための説得力に満ち溢れているのだ。
インタビュー・文責:福山純生(雀聖アワー) 写真:河下太郎(麻雀ウオッチ)
◎福地誠天鳳名人位blog
http://fukuchi.cocolog-nifty.com/blog/
マージャンで生きる人たち back number
- 第1回 株式会社ウインライト 代表取締役社長 藤本勝寛
あらゆる挑戦は、すべて〝妄想〟から始まる - 第2回 株式会社F・R・C代表取締役 香宗我部真
<作業>が<仕事>に変わった先にあるもの - 第3回 ターナージャパン株式会社 制作部 プロデューサー 上島大右
好きなことを仕事にしようと考えるより、自分の仕事を好きになる努力するほうがいい - 第4回 フリーアナウンサー 土屋和彦
しゃべるのが仕事。しゃべることを取材することも仕事 - 第5回 株式会社セガ・インタラクティブ セガNET麻雀MJディレクター 高畑大輔
「マージャンのおかげでキレなくなりました(笑)」 - 第6回 RTD株式会社 代表取締役 張敏賢
「目指すは、新しいマージャン文化の創造」 - 第7回 漫画家 片山まさゆき
「盆面〈ぼんづら〉がいい人生。仕事も麻雀も。そうありたい」 - 第8回 株式会社アルバン 専務取締役 船越千幸
「奪い合うのではなく、増えるきっかけを生み出す」 - 第9回 健康麻将ガラパゴス創業者 田島智裕
「参加者に喜ばれ、なおかつ社会的意義のあることをやり続けたい」 - 第10回 株式会社日本アミューズメントサービス代表 高橋常幸
「希望が持てる業界を構築し、麻雀で社会を変えたい」 - 第11回 《More》プロデューサー 菊池伸城
「躊躇なく一気にやることで、世界は開ける」 - 第12回 麻雀キャスター 小林未沙
「想像力をどれだけ膨らませられるかが勝負です」 - 第13回 麻雀評論家 梶本琢程
「面白かったら続けたらいい。うまくいかなかったら次を考えたらいい」 - 第14回 麻雀AI開発者 水上直紀
「常識を疑い、固定概念を崩したい。強くなるために」 - 第15回 麻雀観戦記者 鈴木聡一郎
「ニュースがライバル。そう思って書いてます」 - 第16回 株式会社サイバーエージェント AbemaTVカンパニー編成部プロデューサー 塚本泰隆
「決断したことに後悔はしない。麻雀から学んだ思考です」 - 第17回 劇画原作者 来賀友志
「麻雀劇画の基本は〝負けの美学〟だと思っています」 - 第18回 株式会社シグナルトーク代表取締役 栢孝文
「始める、続ける、大きく育てる。愛する麻雀の“弱点”を補うために」 - 第19回 フリーライター 福地誠
「まだ本になったことがない新テーマの本を作りたい」 - 第20回 声優 小山剛志
「もがき、あがき、考える日々。一体いつまで続けられるのか」 - 第21回 映画監督 小沼雄一
「大変だけど、やってみる」 - 第22回 麻雀企画集団 バビロン総帥 馬場裕一
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