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漫画家 片山まさゆき  「盆面〈ぼんづら〉がいい人生。仕事も麻雀も。そうありたい」【マージャンで生きる人たち 第7回】

漫画家 片山まさゆき 「盆面〈ぼんづら〉がいい人生。仕事も麻雀も。そうありたい」【マージャンで生きる人たち 第7回】

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〝麻雀漫画〟。スポーツ漫画やグルメ漫画に比べると、作品数は多くない。理由は明瞭。マージャン自体に興味がない人や知らない人は、読まないため。しかし漫画は、そういった人への導入にも最適な日本が誇る表現方法である。その麻雀漫画の中で、数々のヒット作を世に送り出してきた漫画家・片山まさゆき先生に仕事論を聞いた。

 

片山まさゆき(かたやま・まさゆき)プロフィール

1959年、千葉県生まれ。B型、牡牛座。明治大学文学部中退。漫画家。《ぎゅわんぶらあ自己中心派》《打姫オバカミーコ》他著書多数。好きな役は混一色とリーチと七対子。

 

麻雀を始めたきっかけ

愛くるしいキャラクターを紡ぎ出し、麻雀漫画というジャンルに斬新な風を吹き込み続ける片山先生。漫画家であると同時に《第1回麻雀最強戦》ではプロを押しのけ初代最強位を獲得するほど、打ち手としての実力も持ち合わせている。

「高校一年生の時に、友達同士で麻雀をやろうってことになったんです。誰ひとり麻雀をやったことが無いので、ひとり1冊づつ入門書を買って。じゃあ明日やろうってのが始まりです。やってみたらこれおもしろいねってことになって。毎週土日に友達の家に集まってやるようになりました。それからはどんどん仲間を増やしていきました。でも新しい仲間を連れてきても、負けたらすぐにやめてしまう。そんな中で唯一、負けても負けてもずっとやめなかったのが僕でした。仲間内で強い奴が残ったのではなく、めちゃくちゃ負け続けた奴が残った。その負け続けた強烈な体験は、後に《スーパーヅガン》という作品のネタとなって活きるんですが(笑)。強いからではなく、弱いのにやり続けていたことは、混じりっけなく麻雀が好きだという証。負け続けてはいたけれど、麻雀が好きな気持ちだけは誰にも負けていない自負はあったんです。〝自負〟。自分に負けるって書くんですね。今気がついた(笑)」

 

麻雀漫画に乗り気ではなかった!?

漫画家デビューは大学生だった22歳の時。子供の頃からの漫画好きで、赤塚不二夫、鴨川つばめといったギャグ系の作家が好きだったという。

「漫画家になりたいなとはぼんやり思っていたんです。生まれたのは千葉県の田舎。まわりに漫画を描く友達はひとりもいませんでした。大学に入ったら一緒に漫画家を目指せる人がいるんじゃないかと思い、漫画研究会に入部しました。どんなに貧乏しても絶対に漫画家になろうと思ってはいたものの友達もできず、お酒を飲んでは麻雀を打つ毎日。なので単位も取れないし、卒業も出来なさそうだし。そんな日々を過ごしていた頃。少年漫画誌と少女漫画誌しかなかったところに青年漫画誌が出始めた。《ヤングジャンプ》《ヤングマガジン》など、雑誌がどんどん出版されたんです。そうすると、漫画家にとっては描く場所が増える。新しい雑誌を読んでみたら『あれ? オレもいけるんじゃね!?』なんて自惚れまして(笑)。ヤングマガジン新人賞に応募してみたら最終選考に残っちゃたんです。すっかり気を良くして、もう一回応募したら月間新人賞を受賞。それから担当がつくようになりました」

最初に投稿した作品は麻雀漫画。新人賞を取ったのは学園漫画だった。

「学園漫画ってなんだ?って思われるかもしれませんが、学校を舞台にした漫画が流行っていた時代。ただ担当は麻雀漫画に引っかかったようで。『片山くんは麻雀が好きなの?』って聞かれて『はい』と答えたら『学園ギャグを描く人はいっぱいいるけど、麻雀ギャグを描いている人はいないから。片山くんこれでいかない?』って麻雀漫画を提案されたんです。でも僕は抵抗しました。『麻雀漫画は売れないからやりたくない』って言ったんです。そしたら『そんなこと言わないで。隙間を狙っていくことは大事だから』って説得されまして。しぶしぶ描いたのが《ぎゅわんぶらあ自己中心派》だったんです。当時は学園漫画やスポーツ漫画のようなメジャーなジャンルじゃないと人気も出ないし、食べていけないと思っていました。麻雀漫画で売れている作品も見たことがなかった。だから麻雀漫画は売れないと決めつけていたのかもしれません。今思えば、担当が言っていたことは正しかったですね。隙間って大事だなって思います」

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漫画家になりたかったが、本当になってしまうとは。一番びっくりしたのは僕でした(笑)

 

毎月やってくる激痛。連載との葛藤

新人賞を取った後、すぐに連載が始まった。それから30年以上。作品を発表し続けることになるのだが。

「贅沢な話なんですが、連載を頂いているのに、描くネタが無いときも多々ありました。とくに《ぎゅわんぶらあ自己中心派》。読者アンケートで人気も出てきたんですが、考えても考えてもネタが出てこない。アウトプットが続くとインプットする時間も取れない。どんどん空っぽになっていく感覚。精神的に追い詰められて、机の前で泣いていました。漫画家になろうと願っていたのに、なんでこんなに描けないんだろうと。もともと胃が弱かったんですが、毎月1回は胃に激痛をともない、吐いてしまう状態。でも病院に行ってもなんの異常もない。原因はおそらくストレス。描くのが苦しくなって『もうやめたい。やめて違うモノが描きたい』と担当に懇願した時期もありました。でも返答はあっさりNO。『片山くん。連載はマラソンと同じで、途中で止まったらもう走れなくなっちゃうよ。だからなんでもいいから描きなさい』って(笑)。なのでネタが無いときは、人に会ったり、他の作品を読んだり。ネタがおりてくるのを待ちながら机で寝てみたり。締め切りも迫ってくるので、今回は無理かなと思っても、最終的には描き上げられた。なんとかしなきゃという思いだけで、それなりの形にはしてこれた。結果的に、締め切りだけは守ってきましたね」

 

人気があるときにこそ、冷静に見つめ直す

「なので自分としては納得いかない回も正直あります。それでも不思議なもので、人気が出ると慣性の法則みたいなものが働いてしまうんです。そこそこウケてしまうというか、馴染みというか。そういう意味では、お笑い芸人に似ているかもしれません。勢いのあるときは何を言っても、たとえスベったとしても笑いがとれる。だけど旬が過ぎるとまったくウケなくなる。人って勘違いしてしまうから怖い。人気があるときにこれでいいんだと勘違いしてしまうと、あっという間に後退してしまう。人気があるときにこそ、自分を冷静に俯瞰で見つめ直し、現状に満足せず、あらゆることを磨き続けないと、しっぺ返しが来る。僕はこれでいいのかなと思ってしまったんで、しっぺ返しが来ましたけどね(笑)」

 

アイディアは〝言葉〟ではなく〝形〟で伝える

漫画家は、作風によって進行方法が異なる。代表作のひとつでもある《打姫オバカミーコ》誕生の経緯とは?

「僕の場合はアイディアありき。それを具体的なネームという形にしていきます。ネームとは、ペン入れをしていない下描き段階のもの。《打姫オバカミーコ》の場合は、編集長との雑談の折。『師匠がいて新人の女のコがいて、とにかくおバカで麻雀は下手くそだけど、二人三脚でのしあがっていくというストーリーはどうですか』って口頭で提案したのが最初です。それを聞いた編集長は即答しました。『それはやめろ。つまらなさそうだから』って(笑)。それで違う作品をやってみたのですが、何作も失敗して、連載が終わる。そうすると、やっぱり自分が描きたいモノを描きたいなと思い始めまして」

「それで編集長につまらないと言われた《打姫オバカミーコ》の1話目のネームを描いてみたんです。ダメ出しされた経緯も説明しながら担当にネームを見せたら、今度はおもしろいじゃないですかということになって。その担当が編集長や局長にネームを見せてくれ、これだったらいけるんじゃないかということになったんです。アイディアは言葉で伝えたイメージと、具体的な形として見せるのとでは、相手に伝わる印象が異なることを学びました。要はイメージに具体性が無いと相手には伝わらない。それからは2話目までのネームを作って提案するようになりました。これはいけるんじゃないかと思っても、お蔵入りしてしまったネームも数多くありますが(笑)。タイミングもあるし、人それぞれ感性が違うので、それはしょうがないのかなと」

 

自分の武器を持っているか否か

「もともと自分は絵が下手だという自覚があります。長く描いていると、ものすごく上手くなってくる人もいる。僕は30年以上描いてきて上手くならなかった珍しいタイプ(笑)。僕の漫画は世界観やキャラクターが上手く動いていかないと、悲惨な結果になるんです。それでもこの世界でやってこれたのは、麻雀で言えばツイてたみたいなもの(笑)」

「でもヒットしている漫画作品には何かしらの武器があります。僕の場合はキャラクターと麻雀が武器。いいキャラクターが生まれると、キャラクター同士が自然に動き始め、ストーリーが後からついてくる。そして何よりも麻雀がものすごく好きだということが人よりも突出していた。だからこそやってこれたと思うんです。たとえば野球漫画を描く漫画家が、全員野球をやるかというと、そうでも無い。誰もが《あぶさん》の水島新司先生のように野球をやるのも観るのも、すべてに精通しているわけでもないのです。インフィールドフライって何?って言いながら野球漫画を描いている人のほうが多い。麻雀漫画を描く人だって、全員が麻雀の細かいところまで知っているわけではありません。僕の武器はそのふたつですね」

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体験漫画家ここにあり。マカオで行われた《ワールドシリーズオブ麻雀》にもプロに混じって出場

 

《グッドプレイヤーズクラブ》を立ち上げた意義

漫画家以外の活動も幅広い。雀荘を経営しながら、様々な対局番組にも出演。麻雀大会《グッドプレイヤーズクラブ(GPC)》も馬場裕一プロとともに主催している。

「麻雀の行き着く本質とは何か。何を目指して打っているのかなと考えたんです。4人でやっている以上、3人を打ち負かして自分ひとりが勝つことがテーマだったら、それは虚しいのかなと。麻雀をやる意味がないでしょと思ったんです。だったら勝敗よりもマナーを重視したサークルがあってもいいんじゃないかと。それで馬場君と飲んでるときに、GPCをやってみたいと話したら『それいいね!』ってことになって。馬場君は飲んでるときはなんでも『それいいね!』になるんですが(笑)。じゃあやってみようと。最初に作家の綾辻行人さんと将棋棋士の先崎学さんに声をかけたんです。1卓でも成立できればいいかなって思ってました」

GPCは8年目を迎え、北海道から九州まで全国に広がりを見せている。

「実際に開催して感じたことは、多少のバッドプレイヤーズを許せる人がグッドプレイヤーズではないのか。自分はマナーがいいからといって、相手を否定したり、強要するのはむしろバッドプレイヤーなのではないか。誰に対しても寛容な人こそ、真の遊びの王様ではないかという結論に行き着いたんです。日本人はマナーを守ることには長けていますが、他人にうるさすぎ。人を攻撃しすぎだし、裁きすぎだと思うんです。とくに大人になると自分の価値観を押し付ける人が多い。悲しいことですが」

 

漫画家を目指す人に向けて

「料理人であれば、お客様にテキトーなものを出すわけにはいきません。いいネタを仕入れて、それを料理していい状態で召し上がって頂く。漫画もまったく同様で、現場に行って、いいネタを自分で見聞きして仕入れて、さあ描くぞという流れがベスト。なのでネタがなかったら腕のふるいようがない。とにかく仕入れが命。要するに現場に行って自分で見聞きすること。麻雀ゲームをやりつくしたでもいいし、実際に麻雀を打ってぼろ負けするでもいい。現場でリアリティをいかに拾えるか。その臨場感をいかに取り入れられるか。そこを大事にしてほしいですね」

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「とにかく負けている人が好き。そんな人を応援したくなるんです」。片山作品の原点はその想いにある

 

 

好きな言葉は?

「『人間万事、塞翁が馬』。自分ではイヤだと思っていた麻雀漫画で今の自分があるわけだから、何が幸せなのか本当にわからない。自分は今、離婚して、家も売り『僕は人生の負け犬だ~!』って来賀友志さん(《麻雀飛龍伝説 天牌》原作者)にいつも愚痴を言っています(笑)。『そんなことないよ、片チン』って慰めてくれるんですが(笑)。僕が売れていた時期に、福本伸行さん、西原理恵子さん、来賀友志さんはまだブレイクしていなかった。でも今は逆になり、3人ともめちゃめちゃ売れている。僕の場合、漫画家人生のスタートはよかったかもしれないけど、今は底。でもこの状態も作家にとっては貴重な体験なのかなと思っています。今は正直何もうまくいっていないのですが、そんなときだからこそ笑ってられる奴が本当の人生の成功者なんじゃないかなと。負け惜しみかもしれないんですが(笑)。だから毎晩飲んじゃうんですけど(笑)。飲んでいれば笑えるのかなと」

 

片山先生にとってマージャンとは?

「《片山温泉》という恒例行事を15年ほどやっていまして。僕の誕生日に温泉に行って飲んだり麻雀したりという行事なんですけど。売れてた時期には、いろんな人が参加してくれました。でも売れなくなると参加者はどんどん減り、今参加してくれている人のほとんどは麻雀関係者。まるで芥川龍之介の《杜子春》のような世界(笑)。でもどんなときでも分け隔てなく付き合ってくれる友達が出来た。だから心底、麻雀漫画家で良かったなと思っています。麻雀に出会えなかったら今の自分は無い。それは漫画も同じ。一生付き合っていきたいものですね」

 

インタビューを終えて

最近は色紙に『盆面がいい人生』って書くことが多いという。盆面〈ぼんづら〉とは博打用語で勝負における面構えを指す。たとえ勝負に負けたとしても、立ち振る舞いに品がある生き方。「まさに今の僕にぴったりな言葉。人生で負けている時に笑えるのかどうかが試されているのかなと」。そう真剣な眼差しで語る片山先生。向き合っている現実を味わい、笑い飛ばし、それが作品となって昇華される。そんな究極の片山作品が待ち遠しいのは、私だけではあるまい。

 

文責:福山純生(雀聖アワー) 写真:河下太郎(麻雀王国)

◎グットプレイヤーズクラブ
http://goodplayersclub.com

◎ミスチョイス
http://www.misschoicer.com

 

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