麻雀。パチ&スロ。アイドル。エンタメ。キャッチコピー「オトコを満たす」でおなじみのCS放送局《MONDO TV》。毎週火曜日23時から放映されている『MONDO麻雀プロリーグ』をはじめ、麻雀番組だけでも年間50本以上の番組を制作。まさにテレビ対局最高峰となる『MONDO麻雀プロリーグ』プロデューサーに仕事論を聞いた。
1974年、東京都生まれ。O型。ターナージャパン株式会社 制作部 プロデューサー。好きな役は《ツモ》。「とにかくツモれそうな待ちでリーチをしてツモることが好きですね」
仕事の原点は小学校時代にあり
「映像系の仕事がしたい」。物心ついたころから漠然と考えていたと語る上島さん。現在は『MONDO麻雀プロリーグ』のプロデューサーを担当している。映像の世界に対する想いの原点は小学校時代にあった。
「小学生の頃。月に一度、母親が映画に連れてってくれたんです。毎月ホント楽しみでした。来月は何を観ようかなぁと考える時間すらワクワクしてました。ベタな感動映画からアニメまで何でも観ました。とくにポール・ニューマン主演の映画『スティング』。あの大逆転劇は面白かったですね」
高校時代に牌さばきを特訓
「麻雀を始めたのは高校生の頃、仲のいい友達に誘われたのがきっかけでした。元々集中力はあまりなく、好きなゲームもしばらくすると飽きてしまって、コロコロ変わっていました。でも麻雀って不思議なもので、やればやるほど面白くなっていく。自分のレベルでの楽しみ方が増してくるんです。参考書は読まないけれど、麻雀本だけは読み漁り、放課後は麻雀をして、夜は麻雀ゲームをするという日々。あるとき友達が最強戦のビデオを入手して、プロの麻雀を初めて見たのですが衝撃を受けましたね。打ち方や考え方も参考になったんですが、何よりも学んだのは姿勢と牌さばき。ミスター麻雀と呼ばれる小島武夫プロをはじめ有名プロ達のような格好いいフォームに憧れ、寝る前はいつも牌さばきを練習していました。その甲斐あって、いまだにどこへ行っても牌さばきだけはすごいですね!と言われるんです(笑)」
高校卒業後にカナダに留学し、1997年春に帰国。その前年となる1996年10月。日本初となる衛生放送「パーフェクTV!(現・スカパー!)」がスタートしていた。
「民放の制作会社へ行くかどうか迷いもあったのですが、「スカパー!」での放映を行う株式会社ジャパン・イメージ・コミュニケーションズ(現・ターナージャパン株式会社)に入社しました。ケーブルテレビもほとんど浸透していなかった時代。衛星放送という新システムを広めていくことも面白そうだし、民放よりも多くの映像コンテンツを作れるのではないか。とりあえず業界に入ってから、自分の具体的な方向性を考えてみようという気持ちでした」
プロデューサーの仕事とは
「端的に言えば番組制作に必要な〈人〉〈お金〉〈モノ〉を集めること。麻雀番組における〈人〉の面ではプロ雀士、タレント、MC、解説という出演者。そして制作関連スタッフ。〈お金〉の面ではスポンサーをはじめ社内編成部や営業部。〈モノ〉の面では麻雀卓等、各メーカーの方々。基本的にプロデューサーは何かしらの技術を持っているわけではないので、このように様々な人に支えられて自分がいる。だから些細な人との繋がりだってどうなるかはわからない。常に対人コミュニケーションは大切にしていきたいと心がけています」
現在放映されている《第13回女流モンド杯》(2015年7月~10月まで)。その撮影現場には出演者15人、制作・技術スタッフ26人、ヘアメイク4人。その他にスポンサー、営業部、観戦記者等、総勢60名以上が関わっている。これがスペシャル生放送番組『麻雀BATTLE ROYAL』になると約200名が関わる大所帯になるという。
麻雀を通して、人間ドラマを伝えたい
「麻雀プロリーグを担当して7年。当初、現場の雰囲気がなんとなくテレビ対局でかっこいい麻雀をすることが目的のような空気感がありました。テレビなのでもちろんその要素は大事だと思いますが、やはり勝負の世界なのでそれはあくまで過程でありそれから生まれる「結果」にもっとこだわってほしいなと思いました。私は麻雀をゲームではなく競技=スポーツと捉えています。たかが麻雀。されど麻雀。女子サッカーのようにワールドカップで、たとえ準優勝でも悔しがる。あの環境がなければ、競技本来の面白さは視聴者には伝わりません。予選落ちしたプロが涙を見せる。涙を見せることがいいわけではなく、その悔しさをどう次に生かすのか。そんな人間ドラマを視聴者に伝えたいと思っています」
「通常の仕事内容は企画のアイディア出しから始まります。企画が完成したら、チャンネル編成部、時にはスポンサーと交渉し、予算管理しながら制作に関する仕組み作りに入ります。麻雀番組で言えば、どうしたら視聴者が喜んでくれる対局=プレーが生まれるのか。そのためには出演者の皆さんが真剣にプレーできる環境整備=仕組みが必須になります。したがって撮影収録が始まるまでが私の仕事。現場に入ったら、出演者やスタッフに気持ちよく仕事をしてもらえるように声をかけたりしながら、収録の雰囲気を明るくすることぐらいしかできませんからね(笑)」
麻雀プロリーグの収録は約2カ月に1回のペース。収録や番組納品に向けた仕事以外の時間は、魅力ある打ち手を探すためにプロの対局を見に行ったりしているという。
「麻雀=ギャンブルという先入観から抜け出し切れていない。まだまだ麻雀に対する世間のイメージは、正直よくありません。そこを変えていくことも目標のひとつですね」と語る上島さん
環境整備=仕組み作りが成功した例
「今から3年前。高宮まりプロが女流モンド杯に初出場したんですが『タイトルホルダーでもないのに女流モンド杯への出場はまだ早い』。そういった意見はかなりありました。私は高宮プロの麻雀を最初に見たとき、彼女の取り組む姿勢や攻めっ気の強さは、非常に魅力を感じました。しかしテレビ対局では一つ大きなミスをしたら、周りからすごく批判されてしまったりします。ましてやそれが新人プロであればなおさらです。そんな状況下で高宮プロに出演オファーを出したことはひとつの決断でした。本人も精神的にはきつい部分が多々あったとは思うのですが、結果としては、自分の力を精一杯出し切って初出場初優勝。新しいスターが誕生した実感がありましたね」
結果より、自分のスタイルを追及
「麻雀の順位は点棒=持ち点で決まります。だからと言って、点棒を稼ぐ事にとらわれ過ぎる麻雀はどうかなと思うんです。最初から点棒や順位を意識しすぎる打ち方よりも、自分のスタイルを貫いた結果、点棒および順位がついてくる。強いプロ雀士の方々はそんな打ち方をしていると思います。メンタル面が大きく左右するゲームなので、誰でも一旦点棒を持ったら守りたい。逆に点棒がなければ、一気に取り戻してやろうとイライラしてしまいがちですが、そうするとあまりいい結果に繋がらないですよね。」
「仕事もまったく同じ。点棒を意識しすぎて麻雀を打つというのは、一般社会で言えば、お金を意識しすぎて仕事をするということ。お金に関心がないわけではありませんが、お金を追い求めることに終始してもいいことはない。いい仕事ができれば、結果はついてくるはず。そういった部分は、麻雀から学ばせてもらっている気がします」
好きなことを仕事にすることについて
「好きなことを仕事にする。聞こえはいいかもしれませんが、いいことばかりではないのが現実。好きなことを仕事にしたからといって、長続きするわけではありません。ずっと好きかどうかもわかりませんし、好きという感覚だけで仕事をやれるわけではない」
「私はたまたま麻雀が好きで麻雀番組のプロデューサーをやらせてもらっていますが、好きなことを仕事にするより、自分の仕事を好きになったほうがいい。具体的に言えば、自分の仕事を好きになる工夫や努力をする。そのほうが楽しいし、長続きする」
「どんな仕事でも、そのなかで楽しみをみつけていこうとする意識を持つだけで、環境は変わると思います」
筋書きのないドラマを提供したい
「MONDO TVの視聴者層は50~60代男性がメイン。今後は麻雀を知らない若い人にも見てほしい。『劇的な対局後の嬉し涙や悔し涙を見て、私は麻雀やらないけど感動した』。視聴者からこういった意見を頂いたときはホント嬉しいですね。それは麻雀を競技=スポーツとして捉えてくれていることの表れ。オリンピックでもあまり馴染みがなく、ルールすらわからない競技だけど感動する。それと同じように、初めて対局を見る方にも、スポーツ番組のひとつとして楽しんでもらうことが出来れば、より多くの年齢層に広がるのではないかと感じています。オリンピックやワールドカップも4年に一度すべてをかけて戦う。出場するプロ雀士にもそういう気持ちで対局に臨んでもらえたら嬉しいですね」
対局データも楽しみ方のひとつ
「麻雀は他のスポーツ同様、筋書きの無いドラマですが、対局データから見えて来る傾向があるのも事実。プロ野球で言えば勝率、打率、防御率等。昨今のプロ野球のデータ分析は進化していて、得点圏打率や左右ピッチャーに対する打率。対人個別データまで出てくる。番組内ではツモ率、ロン率、平均打点は画面上に出していますが、その他の詳細データはMONDO TVオフィシャルサイトに麻雀プロリーグのデータをアップしています。女流モンド杯の出場選手で言えば、平均打点が最も高い二階堂瑠美プロがホームランバッタータイプ。魚谷侑未プロや和久津晶プロはアベレージヒッタータイプというような分析ができます。データは蓄積なので、増えるにつれて価値が出てきます。データによって、新たな角度から対局を楽しんでもらえたらと思っています」
上島さんが番組に導入した出場全選手の対局データ(2009年6月~2014年6月)。MONDO TVのオフィシャルサイトに掲載されており、様々な角度から選手の傾向を読み解くことができる
上島さんにとって麻雀とは?
「大げさではなく麻雀に育ててもらったと思っています。勉強したり、追求していくと、人としての成長にもつながります。仕事も生き方も麻雀から学んでいる私にとっては、無くてはならないものですね」
インタビューを終えて
『MONDO麻雀プロリーグ』をプロ野球にたとえると《女流モンド杯》《モンド杯》《モンド名人戦》はリーグ戦。《モンド王座決定戦》は日本シリーズ。『麻雀BATTLE ROYAL』はオールスターゲーム。『MONDO式麻雀』はファン感謝祭。これに昨年からJリーグの降格争いさながらの『チャレンジマッチ』も加わり厚みを増し、年間シリーズとしてのストーリーも楽しめる。もちろんすべてのストーリーに筋書きは無い。
文責:福山純生(雀聖アワー) 写真:河下太郎(麻雀ウオッチ)
◎ターナージャパン株式会社とは
ワーナー・ブラザーズを傘下に持つアメリカのエンタテインメント会社ターナー・ブロードキャステイング・システムの日本法人。主な番組は『MONDO TV』『旅チャンネル』『カートゥーンネットワーク』『CNN』。
◎MONDO TVを視聴するには
『スカパー!』『CATV』『J:COM』『IPTV』『ひかりTV』のいずれかで視聴可能。⭐︎MONDO TVオフィシャルサイト
http://www.mondotv.jp
マージャンで生きる人たち back number
- 第1回 株式会社ウインライト 代表取締役社長 藤本勝寛
あらゆる挑戦は、すべて〝妄想〟から始まる - 第2回 株式会社F・R・C代表取締役 香宗我部真
<作業>が<仕事>に変わった先にあるもの - 第3回 ターナージャパン株式会社 制作部 プロデューサー 上島大右
好きなことを仕事にしようと考えるより、自分の仕事を好きになる努力するほうがいい - 第4回 フリーアナウンサー 土屋和彦
しゃべるのが仕事。しゃべることを取材することも仕事 - 第5回 株式会社セガ・インタラクティブ セガNET麻雀MJディレクター 高畑大輔
「マージャンのおかげでキレなくなりました(笑)」 - 第6回 RTD株式会社 代表取締役 張敏賢
「目指すは、新しいマージャン文化の創造」 - 第7回 漫画家 片山まさゆき
「盆面〈ぼんづら〉がいい人生。仕事も麻雀も。そうありたい」 - 第8回 株式会社アルバン 専務取締役 船越千幸
「奪い合うのではなく、増えるきっかけを生み出す」 - 第9回 健康麻将ガラパゴス創業者 田島智裕
「参加者に喜ばれ、なおかつ社会的意義のあることをやり続けたい」 - 第10回 株式会社日本アミューズメントサービス代表 高橋常幸
「希望が持てる業界を構築し、麻雀で社会を変えたい」 - 第11回 《More》プロデューサー 菊池伸城
「躊躇なく一気にやることで、世界は開ける」 - 第12回 麻雀キャスター 小林未沙
「想像力をどれだけ膨らませられるかが勝負です」 - 第13回 麻雀評論家 梶本琢程
「面白かったら続けたらいい。うまくいかなかったら次を考えたらいい」 - 第14回 麻雀AI開発者 水上直紀
「常識を疑い、固定概念を崩したい。強くなるために」 - 第15回 麻雀観戦記者 鈴木聡一郎
「ニュースがライバル。そう思って書いてます」 - 第16回 株式会社サイバーエージェント AbemaTVカンパニー編成部プロデューサー 塚本泰隆
「決断したことに後悔はしない。麻雀から学んだ思考です」 - 第17回 劇画原作者 来賀友志
「麻雀劇画の基本は〝負けの美学〟だと思っています」 - 第18回 株式会社シグナルトーク代表取締役 栢孝文
「始める、続ける、大きく育てる。愛する麻雀の“弱点”を補うために」 - 第19回 フリーライター 福地誠
「まだ本になったことがない新テーマの本を作りたい」 - 第20回 声優 小山剛志
「もがき、あがき、考える日々。一体いつまで続けられるのか」 - 第21回 映画監督 小沼雄一
「大変だけど、やってみる」 - 第22回 麻雀企画集団 バビロン総帥 馬場裕一
「プロは『人が喜ぶ』」 - 第23回 点牌教室ボランティア 松下満百美
「やってあげてるという意識は無いほうがいい」 - 第24回 フリーアナウンサー 松本圭世
「高校野球中継のスタンド取材が今に生きています」 - 第25回 子供麻雀教室講師 山本健
「好きな言葉は、テンパイ即リー、数打ちゃ当たる!」